■「『ONE』〜輝く季節へ〜 私的解題読本」【永遠の盟約】の後段部分である。本として発行した時より、若干の表現を改訂してある。今となっては致命的に問題を感じる箇所も多々あるのだが、一応1999年当時はこういう方向で議論を進めていたということで、その流れだけを追ってみてほしい。おそらく文中の「長森瑞佳=みさお」説には今後さらなる強化が施されることだろう。


 『ONE』〜輝く季節へ〜 私的解題読本

   【 永遠の盟約 】 アフター

 

瀬川あおい

 

ゲームとしての『ONE』表現

 

 【『ONE』〜輝く季節へ〜】。…この一連の物語を読んでいてつくづく思うのだが、ゲームのシナリオというのは小説とは全く異なる性質のものだ。わずかこれだけのテキスト量でもってここまでの情感を生々しく歌い上げる表現手段がいままで他にあっただろうか? かつて、コンピューターゲームというものが開発されたとき、もっとも可能性を強く指摘されたのはマルチメディアとリンクしたインタラクティブ性ということであった。が、ここで表現されている形態を分析してみると、主になるのはあくまで文章であって、それも単調に同じ座標に現れる断片的な文の羅列にすぎない。また、選択肢にもとづく分岐のようなものは「みさおの章」においては全く存在せず、ただマウスの左クリックで1センテンスずつストーリーを追っていくことだけだ。しかも画面に視覚効果はほとんどない。章の切れ目でわずかばかり、思い出したように黒い画面と白い画面とが切り替わるにすぎない。音楽の果たす聴覚的な刷り込み効果はさすがにかなり大きいかもしれないが、しかしイメージを演出するのに何か役立っているかというとそれほどでもなく、あくまでバックグラウンドとしての黒子に徹している。こうなってくると、このテキストは、本で読む小説とどれほどの違いがあるものかと思ってしまうかもしれない。しかし、決定的にやはり違うものなのだ。

 分析的にみるとこの文章は、小説としては適正を欠く言葉の断片で綴られていて、それ単独では極めて作品として成り立ちにくい。つまり、コンピューターという箱の中でこそ最も美しく成立しうる表現形式なんだと思う。 モニターの画面は限られた面積しかなく、紙で表せる実空間と違って解像度という制約を受ける。従って一画面に表示できる字数は限られているし、とくに文字WINDOWというものの存在する中では、その表示限界を絶対に超えることは出来ない。いわゆる「ToHeart」ようなビジュアルノベルを標榜する作品においてはこの制約を可能な限り自由にし、文のセンテンスを少し超える「1画面=ページ」という概念が存在するのだが、『ONE』の場合は実のところ、基本的にビジュアルノベルという形式ではないのである。全画面を使ってテキストが流れることは一度もなく、表現としては最もオーソドックスな伝統的アドベンチャーゲームの形態をとっている。そしてそれは、たぶん『ONE』のシステムを設計したYET11氏のそれなりの主張であるように感じている。この作品の場合は、こうでなくては終局的にダメだったのだ。

 感心するのは、極限まで修飾的表現を押さえ、あくまで平坦に冷静に淡々とした語り口を維持しながら、難しい言葉を一つも使わずに、情景描写から人物たちのおかれた環境、そしてそれぞれの関係と状況に対する想いとをありありと描ききっていることだ。マウスの1クリック毎に現れるセンテンスはそれだけで独特のリズムを生み、またその流れに抗うことなく場面は適切な部分で趣を変えながらストーリーが進んでいく。一行ずつ、リズムと抑揚をもって表現される文章世界は、詩文形式ととてもよく似ている。ただ、紙に書かれた詩はその終端までが一気に見渡せるのに対して、ゲームテキストでは先の流れを視野の片隅に予知することができない。どこまで続くか、どこでとぎれるか、どこでどうなるのかは全くわからない。また、すぎていった言葉はたぐり寄せることができない。そういった独特の制約、過去に落斜する時間の刹那性そのものが、さらなる想いの情感を伴って読む人を釘付けにするのではないかと思う。『MOON.』以来、正直ここで久しぶりに、コンピューターで文字を読むことの醍醐味を味わった気がした。完全にやられたと思った。『ONE』のシナリオライターの方々は元々それなりに才能ある人が書いていると思うのだが、特によくできていたのは、その表現スタイルが完全にこうした「ゲームとして見せる制約と効果」に合致していたことではなかったか。それらはほとんど奇跡に近いようなはまり具合であったように思う。あるいは、子供の視点で書かれたモノローグという形式が、うまい具合にマッチングしたのかもしれない。『ONE』はたぶん、これを小説の手法で表現したとしても感動は薄れると思うし、ならばそのテキストをそのまま紙の上に持ってきたとしても、ドラマチックさはぐんと下がってしまうにちがいない。モニターの中で、一区切りずつ噛みしめるように読むからこそ、これらのテキストは「叙情詩」として完成するのだ。こうした点でユーザーとの相補性効果こそが、本当の「インタラクティブノベル」と呼べるのではないかと思った次第である。

 

みさおとカメレオンのおもちゃ

 

 ゲームとしては、何か奇抜な画面EFFECTを携えて、もっと劇的にシナリオをあおることも確かに可能だ。そういう表現を模索していく方向性がDIRECT Xの技術進化の中には見える。だが、『ONE』はそういった趣向性にはけっして依らないだろう。あくまで直球勝負で来る時、肝心のグラフィック一枚存在しないその画面作りには正直おののく。だが、そこにありうべき絵すらないのは、きっと重大な意味を携えていると思っている。ここで想像するが、回想場面「みさおシナリオ」で、みさおの写真が一枚も表示されないのは、既に作品中でみさおの面影を宿す少女の絵が表現されているという暗示ではないだろうか? さらには一連のモノローグのセンテンスが切れる場面で、主人公の視野に不意に写る「えいえん」の世界の少女の写真。この、唐突な迄の視覚的イメージのなげかけこそが、それがみさおの転生であることを暗示していると自分は思っているのだ…。

 そうでなくてはおかしいだろう?? 最もそこでプレイヤーが知りたいと思う面影が、極めつけのタイミングで提示されたと考えなければ、えいえんの少女の生き絵をこの位置で初めて明かす理由が見えない。長森シナリオで「みずか」と呼ばれたその少女、他キャラシナリオで「きみ」と呼ばれた少女、えいえんの世界を主人公と一緒に旅している少女、幼い日に永遠の盟約を交わした少女、それは「キャラメルのおまけ」とリンクするキャラクターであり、ころころと微かな音が聞こえるこの世界の根元的理由であるはずだが、そもそもそれが「少女」の姿である不自然さを思った時、その面影は「みさお」の代替である必要性がとても高いように思える。「カメレオンのおもちゃ」=キャラメルのおまけ=えいえんの車輪音=いつまでも一緒に居る存在=ちびみずか≒みさお という構図を思い描いてみてはどうだろうか。あの時、浩平少年が何を本当に願っていたかを、思い返してみてほしい。

 そもそもなぜ、カメレオンなのだろうか? という疑問が早くからあった。病身の妹の遊び道具にカメレオンのおもちゃを持ってくるというセンスはとても浩平らしくてほほえましいが、カメレオンがぺろぺろと舌を出す描写についてのこだわりにどこか引っかかるものを覚えたのも確かだ。カメレオンのおもちゃはそのままこの世界観の下敷きになり、ことあるごとにその片鱗を見え隠れさせている。カメレオンの生きている実物を見たことがあるだろうか? それはとても不気味な色をしていて、目玉だけがぎょろりとした、気味の悪いトカゲもどきの生物だ。しかも前から見るとぺしゃんこな顔をしている。ところが、こいつがアマゾンの奥地で捕食活動を営めるのは、そのでっかい目玉を通して網膜に映し出された景色をそのまま皮膚組織に反映してリアルタイムに色素変換し、周囲の色と同化する能力があるからなのだ。そうしておいて、そろりそろりと獲物に近づき、しゅるりと長い舌を延ばして昆虫をぱくりと食ってしまう。まこと気色の悪いやつだ。こんなものをおもちゃにしようなんて思いつくやつもどうかしてるのだが、その最大の特徴は舌をぺろぺろ出したりひっこめたりするというだけでなくて、「擬態」する生き物という点にある。世に言う「カメレオンのように」姿を変えられるわけだ。

 カメレオンが長い間見つめていたものはなんだったろう? カメレオンはずっと、みさおの手のひらの上でころころと車輪をころがされながら舌を出したりひっこめたりしていた。それをながめている幸せを、永遠のもののように主人公は感じていたはずだ。けれどもこの微笑ましい兄と妹との愛情風景は壊れてしまった…。思い出のカメレオンは、逆に「ぼく」の一番辛い思いを呼び起こす引き金になってしまった。「ぼく」はそれを一体どうしてしまったのだろう? とめどもなく泣きながら「ゆきこさん」に手を引かれて知らない街にやってきてしまった「ぼく」は、カメレオンをどうしてしまっただろうか? あるいはこう考えてみよう。カメレオンの方が、彼に会いに来たとしたら、そいつはどんな姿をしていると想像できる?? 何に擬態して現れると思うかい??

 …まだきみは疑っているね。えいえんの世界の女の子はだけど、瑞佳の姿をしているじゃないか? 瑞佳の子供時代を彷彿とさせる顔をしているじゃないか。えいえんの少女は瑞佳の少女時代の分身だって思うぞ…。だって長森シナリオでは、主人公は彼女のことを確かに「みずか」って読んでる。だからあれはやっぱり瑞佳なんだ…。うん、それはとても無理のない結論だと思う。うん、別に瑞佳だとしても全然構わない。確かにおっしゃるとおり「みずか」は「瑞佳」だ。だけど、「みずか」は「えいえん」の世界にいてずっと子供のままの存在。一方の「瑞佳」は、ちゃんと日常世界の中にいて年を取ってゆく生身の人間。両者は住む属性も成長の仕方も違うね。だとしたら、同じ顔を持つ別々の存在として、別々の人格を持っていて別々の世界に住んでいるというのも事実だ。全く同一であると考えることは無理なんだ。「瑞佳」は果たして「みずか」のことを知っていただろうか? あるいは逆に、「みずか」は「瑞佳」という存在を知っているだろうか? たぶん、ちゃんとシナリオを詰めていけばわかると思うが、両者に接点はない。世界の境界でまっぷたつに切り離されている。「みずか」が知っているのは、「盟約」の結ばれた頃の幼い「瑞佳」の姿だけってことだ。その時点で複写した。「瑞佳」はその後成長したけど、「みずか」は時の止まったままの世界にいて、ずっとこどものままでいた。キャラメルのおまけなんてもういらない! と言われてしまう由縁だ。だけどキャラメルのおまけにとってみれば、小さい頃の「瑞佳」しか見ていないのだから、大人になれなくたって仕方のない話だと思う…。

 さて、ここで想像力を精一杯働かせてみよう。もし、「瑞佳」は「みずか」であるという仮定を諦めて、「みさお」だとしたらどうなるか? [「瑞佳」の幼少期=「みさお」]の面影を、カメレオンが擬態したもの、それが「みずか」だとしたら?? 「みさお」の物語の最後に突然、「みずか」の素顔が現れる理由も明快だ。

 ・・・謎が解けるのは、この一点の承諾においてだけじゃないかな。ヒントは海に浮かぶ羊の夢(としての学園生活)。ぼくの切実なる願いは、いつまでも「みさお」と一緒にいられること…だったはずだもの。

(ところで、長森…ならぬ森永のキャラメルっていうのは、「おまけ」がついてなかったような気がする。「おまけ」が付いていたのはグ○コだった。麻枝脚本って、ほんと・・・・キてる。「キャラメルのおまけなんていらない」=「森永キャラメル」=「長森」=「牛乳女」=「森永牛乳」とつながる。)

 

【えいえんのおわり】

 〜ぼくがぼくでなくてオレであるために〜

 

 よく言われることは、『ONE』の世界の95パーセント 以上を占める学園ラブコメのシナリオは、「えいえん」の世界に旅立った主人公が過去を振り返っている話ではないか? というもの。これは、時間的先後関係に拘った見方で、確かにゲームの冒頭において、「ぼく」は「えいえん」の世界に立っている、というモノローグが入ることから、物語が主観的回想と解釈できないこともない。すると、間に挿入される、「えいえん」の世界についての表現(つまり本欄で引用してきた部分)こそが「今」の時制で、瑞佳とか茜とかみさき先輩とか澪とかななぴーとか繭とかの話はそれより「過去」の思い出ってことになる。

 だが、先にも書いていることだが、「えいえん」という無時制の中で「過去」とか「思い出」とかいう時間的解釈が意味をなすかというと甚だ疑問だ。作品は、それらを「思い出」として書いているだろうか? むしろそれらのエピソードは、主人公が「えいえん」の中で思い出を「覚醒」してゆく「過程」での同時的な「夢」として描かれていたのではないか。事実、プレイヤーの時間軸では、「えいえん」の世界の描写と浩平の学園生活は交互に訪れるサンドイッチ体として認識される。それはつながりあう同時発生的な事象で、ある風景(たとえば夕焼け)を介して何らかの因果関係(接続性)を連想させるものだ。高校生だった折原浩平はなぜ、自分が消えることに気づいたのか? 「永遠の盟約」があった「事実」にどうして、気づくことが出来たのか? もし、学園ラブコメ編が単純な思い出を振り返るだけのエピソードだとしたら、その物語の終末で主人公が自分の消えてしまう運命を予想してしまう事態を、残念ながら説明できない。そもそもあれは、「永遠の盟約」があった事実を知っていなくては出てくることのない運命への「予感」なのだ。もう一人の自分が「えいえん」の世界にいることを自覚しなければ導き出せない未来予知なのだ。

 長い長い、みさおのエピソードを含む「永遠の盟約」についての「回想」は、「えいえん」の世界における「ぼく」の「今」において表現されているものであり、折原浩平の高校生活をその「過去」の時制に固定的に据えてしまっては、彼が消える「予感」をそこに得ることは絶対に不可能であろう。従って、『ONE』の構造はどちらかがどちらかの「回想」ではない。そういう単純な平面的図式ではない。


 

『ONE』図解

 

a <折原浩平>                                        <ボク>         c

高校生の日常世界                                     えいえんの風景

   これを見ることで消えることを知る…         −>          みさおの回想,永遠の盟約

消えていなくなるまでの 絆                 <−       …これを覚醒し、思い出す         

b      消滅                                         盟約の破棄        d        

  (紙テープの表側)           <メビウスの輪になっている>     (紙テープの裏側)

 

※時間的フローはそれぞれ上から下へ流れる。従って、両者の先後関係を追求すると矛盾し破綻する。唯一の解決は、「同時」に「別世界」のお互いを「夢」として見ていながら、紙テープの表と裏のように別々のものとして存在し、時間を進行すること。

※<ボク>が過去の折原浩平の世界のことを思い出すということは、過去に点bから点cへと移動し、同時に記憶を失って今の<ボク>がある。

※<ボク>は「盟約」を破棄。点dから点aに移行するが、同時に彼も「記憶」を全て消失。

※「盟約」は約10年前。以後二つの世界が平行してまっすぐ存在してきたが、折原浩平がはじめて『絆』を『盟約』に優先させた時、この関係が崩れる。消えていなくなるまでの数ヶ月間を1ターンとして、二つの世界の浩平が記憶消失とともに入れ替わる「メビウスのリング」を構成し始める。

※各女の子とのバッドエンディングでは、点bから点cへの移動がゲーム中で具体的に表現されている。初期段階では「絆」をもった少女が「えいえん」の世界にも現れるが、「絆」が弱いため、やがてその面影は「えいえん」の少女=「みずか」に変貌する。これもカメレオンの「擬態」の結果。

※ゲーム開始直後のモノローグ。「とても幸せだった…」の表現は、点aにおいてまだ点dでの覚醒記憶(みさおのこと)が残っている状態と考えられる。が、瑞佳のタイトルバックとともに記憶は完全にリセットされ、学園ストーリーに再突入する。(もしくはどこかの時制を再選択”ロード”する)

※メビウスの輪を想像すれば、表から裏、裏から表へといつの間にか記憶が続くはずであるから、このことをイメージしやすい。ループしていながら、ある点では紙の表と裏に、同時に主人公が存在する。紙をすかせば、もう一人の自分のもう一つの世界での物語が見える。

※ただ、リプレイするごとに各ターンの内容は書き換わるので、メビウスの輪の上にはいくつものストーリーの線が引かれることになる。それぞれのストーリーのループは、三次元図式上でチェーンとしてつながってゆく。その全体像が『ONE』である。

 


 

 今一度、『ONE』の企画書を振り返ってみてみよう。

 

自分の中にもうひとつの世界ができつつあることに気付く主人公。

それは彼がこの町で、ただ自分をこの世界に繋ぎ止めておこうとし始めるきっかけでもあった。

仲間たちとの思い出作りに励む主人公。 最も充実した日々の始まり。

しかし不意に自分の中のもうひとつの世界に自分が存在する。

「あなたと暮らす場所です、ここが。そして私はずっと、そばに居させて頂きます」

無表情に言い諭す少女。

時間が経つにつれその世界は完璧に近づいてゆき、主人公の存在は、現実世界において希薄になってゆく。

 

 此の文書でもわかるとおり、日常の中にもう一つの世界ができあがりつつあることに主人公は気付いてしまうのだ。もう一つの世界というのが、言うまでもなく「えいえん」の世界。従ってそれは、少なくとも浩平の視点にとっては同時派生的なものだ。浩平の認知する世界地平の一部、あるいはつながった二つの世界という設定である。物語はやはり、描かれている時間順序の通りに実際発生していると考えられる。それでは、「不意に自分の中のもうひとつの世界に自分が存在する」というのはどういうことを言っているのだろうか。

 「胡蝶の夢」という有名な故事がある。荘子が夢で、胡蝶になって楽しみ、自分と蝶との区別を忘れたという話だ。自分が蝶になった夢を見る。しかしひょっとしたら蝶が、自分という夢を見ていたのかもしれない。そうしてだんだんと、どちらが本当のものでどちらが夢かわからなくなってゆく…そういうものの例えだ。

 紛れもなく『ONE』は胡蝶の夢の援用である。それはゲームの構造そのものがメタテキストになっている点にも由来するが、その件については後述する。ともかく主人公は自分の中に、もう一つの世界に存在する自分の夢を見るようになり、しかも次第にそれが拡大していって自分の中に占める領域を増長し、やがて、その夢こそが現実となって元の自分を消し去ってしまう…というのが基本シノプシスだ。つまり、中間地点においてはどっちが夢なのか、実のところわからないような状態を演出することが狙いだったと思われる。結論の側からいけば、浸食されて消えてしまった日常の世界こそが実は夢だった、ということにもなろう。少なくとも構造上はそういう結果となる。

 ところで夢を見ているとき、それを夢と自覚することはどの程度あるだろうか? はたまた夢から覚めたとき、夢の中での出来事を覚えていることはどの程度あるだろうか? 浩平は、はじめはほんのわずか、夢を見た記憶だけが残っている。それこそが不意に気付いた、自分の中のもう一つの世界であったわけだ。そこが「消えて無くなる迄の四ヶ月間」のスタート地点。やがて、夢はひんぱんに現れるようになる。それは何度見てももの悲しいだけの風景なのだが、どうしてそんな夢ばかりを見るのかわからない。また、傍らに誰かが居て話をした覚えがあるのだが、その内容もよく思い出せない。覚醒しきっていないので、どうしてそういう世界が自分の中にあるのかということが理解できていない。浩平は夢に現れる不確定なイメージに抗うように、懸命に日常を生き始める。「絆」を求め始める。それは彼なりに何かを予感していたのかもしれない。不安だったのかもしれない。そうして、彼の不安はある日を境に的中してゆく。そのある日、というのが、夢の中での自分がどうしてそこにいるのか気付いてしまった日のことなのだ。すなわち子供の頃の戯れの「永遠の盟約」が向こう側の世界には存在し、恐ろしいことにそれが事実として認知されてくるにつれて、こちら側の本来の自分の存在が対照的に希薄になってゆく。もし「盟約」が本当にあったことならば、その世界にいる自分こそが本物であり、こちら側の自分は遠い過去に旅立った魂の抜け殻であるかもしれないからだ。いや、疑問の余地なく確実に、浩平の存在はこちら側で薄れつつある。見知った友達が、だんだん自分のことに気付かなくなる。やがて、もっとも「絆」を深めた少女の心にも自分が見えなくなる恐怖…確実にその日が訪れつつあることへの高まる焦燥。しかし為す術もなく17歳の誕生日を目前にして浩平は、き・え・る。

 さて、この視点をひっくり返して、今まで説明してきた「えいえん」の世界のぼくの最後の言葉をひもといてみようか。

 

長い時間が経ったんだ。

いろいろな人と出会って、いろいろな日々に生きたんだ。

ぼくはあれから強くなったし、泣いてばかりじゃなくなった。

消えていなくなるまでの4ヶ月の間、それに抗うようにして、ぼくはいろんな出会いをした。

乙女を夢見ては、失敗ばかりの女の子。

光を失っても笑顔を失わなかった先輩。

ただ一途に何かを待ち続けているクラスメイト。

言葉なんか喋れなくても精一杯気持ちを伝える後輩。

大人になろうと頑張り始めた泣き虫の子。

そして、そこでも、ずっとそばにいてくれたキミ。

 

 実は、「えいえん」の世界の「ぼく」が、もう一つの世界の「オレ」、すなわち日常生活の中に生きる自分のことについて言及するのはこれが初めてだ。「ぼく」はこの「えいえん」の世界に目覚めた時からずっとそういった夢を見ていたように思われるが、その夢の内容に言及したのはこれが最初で、しかも最後である。

 「ぼく」が学園生活のことを明瞭に振り返ることと、「えいえん」の世界についての描写がゲーム中でそれを期におしまいとなること。それは決して偶然ではない。「えいえん」に於ける覚醒、それは同時に夢の封鎖と機を一にする。全ての過去を知ってしまい、「えいえん」の世界の成り立ちのからくりを思い出してしまい、「今さら、キャラメルのおまけなんか、いらなかったんだ。」という形で盟約の破棄を宣言してしまった時、主人公の身に何が起こるのか? はたまたそれを聞いた「みずか」が何をするであろうかということ、そんな想像はあまりにも容易なのではなかろうか。この世界にいざなった時と同様に、彼の記憶を封印し、また虚無の中に魂を閉じこめてしまえば、スタート地点に戻れるということだ。ゲームはリプレイされる。これが何回目のリプレイなのか、想像はつかない。

 「ぼく」はもう、ずいぶん長い間「えいえん」の世界にいるように思う。実時間の無い「えいえん」において、その時間を「長い」と表現できるということは、主観的尺度でかなりの時間が過ぎたことを認識できていることになる。もし、「えいえん」の中だけに住んでいたのだとしたら、きっとその期間は長くも短くもない止まったものとして感じられたのだろうが、主人公はこっそり夢を見ていたのだ。その夢の中では実時間が過ぎてゆく。当然、七歳だった彼が学校へ登って、順繰りに学年を進み、卒業して入学して受験をしてまた卒業して、という日常を順当に過ごしていったに相違ない。その中でずっと一緒にいた幼友達は瑞佳だったし、それ以外にもたくさんの人々と学校や街で出会い、いろんな日々を過ごしていった筈なのだ。具体的にそれだけの年月が実際過ぎたかどうかというのは重要じゃない。彼自身が、自分が今いくつかを自覚できるだけの「経験」を蓄積できたかどうかが問題になるのだ。それが気の遠くなるほどの時間を要したのか、それともほんのついさっきなのかはわからないが、ともかく浩平の部屋のカレンダーが17歳の誕生日を前にしたその4ヶ月ほど手前から、どういうわけか何らかのきっかけで彼の夢の中にも「えいえん」がしのびこむようになっていた。「えいえん」とは、「ぼく」が本当に生きている世界のことなのかもしれないが、夢の中の浩平にしてみれば、ただ自分の日常の生活をおびやかす得体の知れない不安な光景だろう。浩平の恐怖と呼応して、それからというもの「えいえん」の中で目覚めている「ぼく」の方は、この世界に疑問を抱き、かたわらの彼女の存在に猜疑心を抱き、胸の中の空虚さをはかなみ、ここへ初めて来た時の記憶を回復しようと努めていた。それが結局、浩平の幸せで平板な日常を壊すきっかけとなっていったのである。自分を取り戻そうとすることで求めている自分の世界を失ってしまう…まさにアイロニーだ。

 夢の中で、浩平は元気だった。泣いてばかりの自分は卒業していた。泣く理由は夢の中の設定にはなかったから。浩平は、泣いていた過去のことを忘却している。かわりに、ガラス窓に石を投げる可愛い天使の訪れがあった。「ひとりっこの」オレは、だから、それをきっかけに彼女をかわいがり、ささやかな愛情表現として、いじめていじめていじめまくった。女の子は泣きながら、いやがりながら、それでも一緒に遊ぼうとくっついてきた。それはつまり、そういう「設定」だったということだ。浩平の人生の記憶は、浩平が決めればいい。どこまでもどこまでも、心ゆくまで楽しめばいい。えいえんにたゆたう羊の見る夢は、日常という名の幻影。それは胡蝶の夢。覚めない夢ならば、きっとそれがそのまま現実の生であったはずだ。そうして浩平がそれを自覚するかどうかは別にして、幸福で平板な日々がどこまでも続くはずだった。いつまでもどこまでも…それもまた、幸せなもう一つの「えいえん」の世界。

 結局、それが崩れたのはいつだったのだろう? 学校帰りに、あの空の夕焼けをふと眺めたときか。それとも自宅の寝室で、子供の頃に見た海の光景を心に思い浮かべたときだったか。気配はあったのかもしれない。悪いことが訪れようとしていることを、心のどこかに察知していたかもしれない。だから、浩平の教室に七瀬が転校してくる。異界からの客(制服がずっと変わらぬ不自然さを思って欲しい)。その日から、現実に「絆」を求めようとする浩平の悪ふざけはさらなるエキサイトを遂げ(七瀬の後ろ髪に対する主人公のあの執着心の不自然さを思って欲しい)、女の子達はみんなひどいめにあうのだが(授業中あれだけ悪ふざけをしても教師が気付かない不自然さを思って欲しい)、そういう日々こそがまた愛おしいのだ(浩平のようなやつがなぜかもてまくる不自然さを思って欲しい)。それもまた、繰り返す日常の中のかけがえのない時間であったはずだからだ。

 

「乙女を夢見ては、失敗ばかりの女の子。」七瀬留美

「光を失っても笑顔を失わなかった先輩。」川名みさき

「ただ一途に何かを待ち続けているクラスメイト。」里村茜

「言葉なんか喋れなくても精一杯気持ちを伝える後輩。」上月澪

「大人になろうと頑張り始めた泣き虫の子。」椎名繭

 

 気付いているだろうか、この不自然に偏った登場人物達のことを。「ぼく」の猜疑心を。偶然に頼って、こういう組み合わせには絶対ならない。これほどの率で社会的ハンディを背負ったキャラクターが揃うなんて、おかしすぎる。あるいは残り二人についても、過去に深い傷を心に負っている。とことんむじゃきにトラウマを抱えた女の子達…こうしたヒロインの設定からして、前代未聞な『ONE』だ。やってくれるぜ! われらが浩平って感じだ。なぜなら全ては、彼自身の選択、だからだ。「選択肢」を選ぶあなた自身のことだと思ってみてもいい。

 

「そして、そこでも、ずっとそばにいてくれたキミ。」長森瑞佳

 

 ・・・ここで長森が呼ばれるのは長森シナリオの時のみ。そしてこのことからも、最も疑惑の多い女だ。ここで、「ずっとそばにいてくれたキミ」という言い回しは、そのすぐ前に「えいえん」の世界の少女を「みずか」と呼んだことに韻を踏むものだが、「みずか」と「瑞佳」の同一性が解せない。確かに二人は同じ顔を持つドッペルゲンガーのような存在だが、先にも述べた通りこの二人は違うパーソナリティを持っているはずである。むろん、同一視するほうが単純でわかりやすいが、そうすると瑞佳シナリオは本来、他の女の子達のシナリオと全然異なる展開にならなければならないと思う。瑞佳とのラブラブモードでもやっぱり主人公が消えてしまうのでは、「みずか」の意思に反することになってしまうからだ。「みずか」=「瑞佳」なら、彼女がそちらの世界で幸せになるのならその時に限り「永遠の盟約」を破っても良いはずだったからだ。すなわちそれが最高のハッピーエンドとなるべきだった。

 正直、そうなることを期待して最後の最後に長森シナリオをプレイした…。「みずか」の謎がここで解けるのかとずっと思っていた。だが、結局は瑞佳の時も他の女の子達と全く同じシチュエーションのラストシーンを迎える。浩平は消えてしまう。瑞佳の特殊性は、否決されたのだ。瑞佳はやっぱり、他キャラと同じ水準での主人公のパートナーにすぎず、「みずか」との直接的関連性はなかった。だから、ここで意識的に「そして、そこでも、ずっとそばにいてくれたキミ。」と呼びかけているのも、全てを理解した上で彼が皮肉をこめてそう、呼んでいるのではないかということだ。つまり、「おまえは瑞佳ではないのに、オレの前で瑞佳の姿をしている。ところが本当のおまえは名無しの少女の筈だ。にせもののくせに瑞佳のふりをしやがって、そうか、そっちがオレをだますつもりなら、こっちもおまえのことはひらがなのちび『みずか』って呼んでやろうじゃないか。」と、まぁ、浩平ならひねくれてそんなことを考えたかどうか。

 

 ちなみに、この覚醒段階でもみさおの面影を主人公は未だ思い出していない。みさおの思い出を回想するシーンに於いてすら、みさおの面影は絵として画面に現れなかった。それどころか、みさおに関する一切の情報が、その時の病室の風景やカメレオンのおもちゃや母親の姿ともどもごっそり抜け落ちている。これはおばの「ゆきこさん」の姿が終始画面に出てこないことにも関係あるのだが、浩平自身がイメージできない人々はここでは映像を伴って現れないのではないか。あくまでもシーンの主観は浩平の視点にとどまるので、全ては彼の脳裏に写るものだけがこの世界でビジュアルに共有できるもの、ということになる。浩平が最後まで思い出せなかったみさおの面影、それはひとえに心の傷の深さを物語っているように思える。あるいは「ゆきこさん」の顔が見えないのも、壊れてしまった主人公が別の街に連れられていった時、既に彼の意識におばの素顔はとらえられていなかったことに起因していると思う。浩平は、「ゆきこさん」がどういう顔をしているのか、きっと興味がないままなのだ。従ってたとえ夢の中であっても、「ゆきこさん」なる人は姿を現すことは出来ない。そこに居ても顔は見えない。少なくとも彼の主観の中に「ゆきこさん」が認知されるということはほぼあり得ない。

 このように、画面に出てこない人物というのは浩平が意識に登らせることの出来ない人物と考えると非情にすっきりする。従って、みさおが出てこないのも、浩平がそれを脳裏に再現できないからだと判断するが、しかし先にも書いたが自分の結論としては「みさお」=「瑞佳」という立場を今のところ取っている。瑞佳は、浩平にとってのみさおの再現体という自分なりの極めてイレギュラーな想像を受け入れるならば、みさおの素顔は逆に誰もが初めから知らされていたことになる。気付いていないのは当の浩平だけなのだ。というより、彼がそれを瑞佳だと思いこんで、彼女を瑞佳と呼び続ける限り、相対するみさおの面影は白紙であらざるをえないということだろう。また、みさおが瑞佳として再生(り・バース)しているのならば、おそらく瑞佳自身もみさおであった記憶は持たないだろう。それはあくまで前世の話であり、みさおは間違いなく過去に死んでしまったのだ。そう、みさおは死んだのだ。それだけは動かしがたい厳然たる「事実」に違いない。

 

駆け抜けるような4ヶ月だった。そしてぼくは、幸せだったんだ。

<滅びに向かって進んでいるのに…?>

いや、だからこそなんだよ。

それを、知っていたからぼくはこんなにも悲しいんだよ。

滅びに向かうからこそ、すべてはかけがえのない瞬間だってことを。

こんな永遠なんて、もういらなかった。

だからこそ、あのときぼくは絆を求めたはずだったんだ。

…オレは。

 

 「駆け抜けるような4ヶ月だった」…ここでふりかえるあの、少女達との日常世界のことを過去完了(IT HAD BEEN)として話している点は、だめ押しで説明しなくてはならないか。シナリオの構成としては、この部分が出てきてから再び主人公の視点はあの日常世界の元へ帰り、お菓子の国の話とその国の王子様のことを瑞佳に尋ねたりし始める。そして、徐々に自分の存在がこの世界で希薄になりつつあることを自覚しながら、人々の意識から忘れられながら、かろうじて最愛の少女との最後の邂逅を果たし、お互いの愛情を確認しあい、やがてその人の前からも本当に姿を消す。物語のクライマックスとして相応しい、切ない恋愛シーンがこれでもかと繰り出される、『ONE』を傑作として認知せしめた究極怒濤のファイナルミッションのスタートである。主人公が完全に消えてしまったところで、彼の回想するセピア色の日常の風景が織りなされ、そこに大好きな人の笑顔が浮かび上がりながらエンディングテロップへとなだれこむすばらしい表現は見事の一語に尽き、実際大好きでたまらない構成なのだが、そうした劇的な展開をより美しく決めるために、消えてしまい「えいえん」の世界へと収監された浩平の意識のその後の描写が、冗長性を排除していちいち描かれない分、倒置的にここで、本来の位置から前倒し挿入されていると思って良いだろう。つまり、「駆け抜けるような4ヶ月だった」という表現は、既にその世界で消えてしまった浩平が過去を振り返って「えいえん」の中で述懐するシチュエーションであるがゆえに、過去完了形式で語られているということだ。一連のセンテンスは、ことがもう終わってしまった後の、凝縮された想いのエッセンスなのである。 その時、「ぼく」は「オレ」へと変わる…。

 

浩平「瑞佳っ!」 オレは思わず、長森の名を叫んでいた。

長森「………」 無感情の目でオレの顔を見ていた。

浩平「瑞佳…?」 喉が乾いた。唾が不快に舌の裏に絡みつく。

浩平「瑞佳っ、なぁ…」

長森「………」

長森「…どうしたの、浩平」

……いや、わかっていた。

…薄れてゆく存在。

違和感とは、それだったのだ。

長森「なに恐い顔してるんだよ」

取り繕ったような笑顔でオレを見る。 そして、どこに行こうとしているのだろう、オレは…。 それは確実な『予感』だった。 この場所を去って、どこに向かおうとしているのだろう。

 

 学校帰り、夕日に染まりながら、瑞佳と歩ける喜びと幸せの中にいながら、浩平は不意に奇妙な感覚にとらわれ始める。違和感それ自体はかなり前から自分の中に感じていたのだが、今こそその理由に気が付いた。長森が、はじめて「無感情の目でオレの顔を見ていた」その時だ。呼びかけても応えない一瞬の隙間、何かが確実に現実の中に忍び寄りつつあることを直感した瞬間だった。次第に自分の中に焦燥ともいうべき感情がのぼりたちはじめる。開いた口を閉じられなくなる。乾いてゆく。心が同時に、乾いてゆく。 「薄れてゆく存在」 それが回答だった。今までの違和感の、それが答えだったのだ。オレは、此の世界で徐々に人々から忘れられつつあった。最愛の人も、オレのことを刹那に忘却しているのがわかった。取り繕ったような幼なじみの笑顔が、寒い。わかっていたんだ。そうなることは、だんだん気付いていた。彼女だけじゃないんだ。世界そのものが、オレのことを忘却してゆこうとしていた。つまり、それは、世界の側から見ればオレが消えてゆく、確実な予兆だったのだ。たぶんオレはここを去って別の場所へ向かおうとしている。だが、その先は一体どこなのだろうか? この魂はどこに旅立とうとしているのだろうか?  この空だ…。 手足を伸ばしても、足を掻こうとも何にも届かない。 向かえる場所もなく、訪れる時間もない。 …永遠。 その言葉で繋がっていたのだ。 この空の向こうに、その永遠の場所がある。 あの日求めた世界だ。 世界はあのときから始まって、そこへ収束しようとしている。 そこへオレは向かおうとしているのだ…。

 不意に視線を空へ向ける。そこに、沈みゆく真っ赤な夕日が見える。幻想的な光景。吸い込まれるような魔性の風景。その空を見つめたとき、オレの中にはその世界のイメージがわきあがった。そいつはもう一つの俺自身の記憶でもあった。手足をどんなに伸ばしても、何も指先には触れない。どこにも届かない。ただ無限ともいうべき空虚な広がりの中で、たたずむオレの体。心。魂。そこから先へはどこへもいけず、はたまた時間の流れすらもない、「えいえん」の世界のビジョンが、その時その瞬間に垣間見えた。あの夕日の空の向こうに、それはある。それは逃れられない俺自身の現実なのだ。

 この世界はいつしかそことつながっていた。「えいえん」という言葉でつながっていた。いや、はじめから一つの世界だったのだとしたら…オレは、長い間そのことをきっと忘れていたのだ。目を伏せようとしていたのだ。遠い時間の夢と思っていたことは、実は現実で、むしろこの、今オレの立っている世界こそが夢なのだとしたらどうだろうか。夢と気付いたオレは、目覚めとともにここから消えるのではないだろうか。いや、そこには…確実に消えるという確信があった。それは、繰り返し起こった出来事の再来であるような気がした。

 あの日、オレはそれを求めたのだ。「えいえん」の世界。幼かったあの日…そこへ旅だったのは俺自身の意思だ。その世界はオレの中で生まれ、オレの中で育ち、そしてオレを取り込んだ。その中できっと、今のオレの世界は始まったのだ。だとすれば、このオレの世界は、あのときから始まって、今そこへと収束しているのではなかろうか…。

 『沈む日』の衝撃的な光景を媒介とするこの、「えいえん」との接点を自覚する主人公の覚醒のビジョン。それは、本テキスト前段項目「えいえん そのなな 『沈む日』」に出てきた風景と同一のものだった。(同じCGが使われている。)つまり、同一の風景を「ぼく」と「オレ」は共有しているのだ。だとすれば世界の接合点もおそらくこの風景にあると推測される。同じ風景を見て感慨する主人公の内意識は、この箇所でつながっていたことになる。つまり、「ななばんめのえいえん」のバックグラウンド(同時に見ている『夢』)が、浩平のこの学校帰りの夕日の世界ということになり、そこで初めて自分が消えつつあることを自覚し、これにあらがうように誰かとの「絆」を求めようとあがき始めるのだ。本当の『ONE』のテーマがここから始まる。涙無くしては追えない、劇的なシチュエーションである。

 そうなってくると、「えいえん そのなな 『沈む日』」の裏の意味をあらためて、解釈し直す必要があるのではないだろうか。今までに述べたのは、「えいえん」の世界にいる「ぼく」の為の言葉の通釈であったが、その意味深な言葉にはもう一つ、裏側の意味掛けが含まれている。言葉の裏側、つまり、「日常世界」に生きている「浩平」にとっての立場から読みとれる、重層化された意味をもくみ取る必要性がでてくるわけだ。つまり言葉は、「ぼく」の悲しい「過去」と消えゆく「現在」とを重ね合わせた、符合的一致のレイヤー構造になっているということで、それを以下に再考してみよう。

 

(以下、再度引用)

帰り道…

<ん…?>

帰り道を見ている気がするよ。

<そう…?>

うん。遠く出かけたんだ、その日は。

<うん> 日も暮れて、空を見上げると、それは違う空なんだ。いつもとは。 違う方向に進む人生に続いてるんだ、その空は。 その日、遠出してしまったために、帰りたい場所には帰れなくなってしまう。 ぼくは海を越えて、知らない街で暮らすことになるんだ。 そしていつしか大きくなって、思う。 幼い日々を送った、自分の生まれた街があったことを。 それはとても悲しいことなんだ。 ほんとうの温もりはそこにあるはずだったんだからね。

<………> <…それは、今のあなたのことなのかな>

そんなふうに聞こえた…? <うん…>

 

 帰り道である。浩平と瑞佳との学校からの帰り道。浩平はふと、空を見上げる。そこに「えいえん」への通路が見える。あの夕日の向こうにそれは、ある。そのことに気付いてしまったのが、彼の消えゆく感覚の始まりでもある。傍らの少女は瑞佳。きっとそのことも、あの世界のぼくと符合しているはずだ。その日は遠くまででかけ、ふと脳裏をかすめる遠い過去の物語を彷徨い、戻ってきたときにはもう、彼女の表情は浩平から離れていた。浩平はほんのちょっとの間、彼女と歩くこの街角の世界から精神だけを遠出させたのだと思う。帰ってきたとき、今まで浩平を見つめていた彼女の視線とは別のものに変わっていた。そう、まるで違う場所に帰ってきたみたいだ。再び夕日を仰ぎ見るとそれは、さっきまで漠然と眺めていた日常の風景の一部としての空とは違う意味合いのものに見えた。その空は、違う世界の方へとつながっていたんだ。浩平はそのことをはっきりと認識した。「えいえん」の空だ。そこには、別の世界が存在する。そしてそれが存在するということは、この今立っている世界が変質せざるをえないことをも意味している。浩平は、もう、今までのような日常の中にとどまっていることはできない。「えいえん」の方角へと徐々に旅立とうとしている。この世界は彼の存在を手放そうとしている。

 浩平はきっと、やがてこの空を越えて知らない世界に所属するようになるだろう。そしておそらく思う。今のこの世界があったことを。自分がそこで生まれた(と信ずる)世界があったことを。もう戻れない、懐かしい世界があったことを。それはとても悲しいことなんだ。本当の人と人とのぬくもりは、絆は、きっと今生きている日常のなにげなさにあったはずなんだから、ね。……それは紛れもない、今の浩平自身の物語だ。

 

ぼくはね、最後まで頑張ったんだ。

<………>

あのとき、頑張って、自分の街に居続けることを願った。

それは別にこの世界を否定しようとしたんじゃない。

この世界の存在を受け止めたうえで、あの場所に居残れるんじゃないかと、思っていたんだ。

でもダメだった。

<そんなことわざわざ言って欲しくないよ…>

ただね、もっとあのとき頑張っていれば、ほんとうに自分をあの場所に繋ぎ止められたのか、それが知りたかったんだ。

<どうして?>

べつに、可能性があったとして、それはここに来ないで済んでいたのか、という話しじゃない。 ただ、もしほんとうにできるんだったら、ぼくの人との絆っていうものがそれだけのものだったのかと、悔しいだけなんだ。 どう思う?

<たぶん…無理だったと思うよ>

<この世界はあなたの中で始まっていたんだから>

やっぱりそうか…。

<うん…>

でも、それが無理でも、この世界を終わらせることはできたかもしれない。

<………>

いや、できる、かもしれない。

<この世界は終わらないよ>

<だって、すでに終わっているんだから>

 

 浩平は、最後まで頑張った。大好きな人との絆を求め、そしてその人にだけは忘れられないように頑張った。それはつまり、この世界に居残ろうとする彼自身の強い執着だった。別に、「えいえん」の世界を真っ向から否定したわけじゃない。この世界が自分の中に存在することを認めた上で、それを承知しながらそれでもどうにかしてあの日常の世界に自分を繋ぎ止められるんじゃないかと思っていたんだ。でも、そんなことは結局無理だった。折原浩平という人間は、自分の生きていた世界から忘れられ、あまつさえその肉体も消去された。どんなに抗っても、そこに残ることはできなかったんだ。それが残念でならない。

 ただね、あの時もっともっと頑張って自分を繋ぎ止めるものを強く強く求めていたら、いろんな箇所に楔を打ち込むことが出来ていたなら、ひょっとしたら自分の願い通りそこにそのままいられたかどうか、それが知りたいと思う。そういう可能性があったんだろうか? …必ずしもそうしたかったというわけじゃないんだ。ここにこなくて済んだかもとか、そういう形で「えいえん」の世界を卑下する訳じゃない。ただ拘っているのは、自分のあの時の人との「絆」というものが、肉体的存在一つ、そこへ繋ぎ止めていられないほどのもんだったのかという点が、ひっかっかっているんだ。それはその程度のものだったんだろうか、と。

 無理だったのかな。やっぱり無理だったのかな。自分だけの「えいえん」を初めから求めていたということなのかな。それは逃れられない、自ら課した命運だったのかな。こうなることはものすごく前から決まっていたことなのかな。そう、かもしれないな。うん。だけど、その時無理にでも「えいえん」を強制終了させることはできたんじゃないだろうか。自身の意思で、終わらせることはできたんじゃないか。そう強く望めば、この世界を求めたときの気持ち以上の力で望めば、心の中にできあがったお菓子の国はそこで終わらせることができたんじゃないだろうか。いや、過去の出来事に対する悔恨だけではなく、今自分が本当に望めば、現に存在しているこの世界を終わらせて、再び元に戻れるんじゃないだろうか? …それはささやかなる希望、あるいは抵抗であるけれども。

 以上、「えいえん そのなな」の引用部分の、裏側の意味を追ってみた。それらは見事に、浩平の幼い頃の過去の体験の流れと一致する。まだ小さかったあの頃、妹のみさおを失いながら、それでも現実世界との接点に居残ろうとして泣き続けていた自分。しかし、みさおと暮らした家から離され、みさおの記憶を失い、みさおのいない街へと連れてこられたことが少年の「現実」との接点を根こそぎ奪ってしまう。辛いことでも、悲しいことでも、泣いている理由の痕跡がまだ残っていれば居残れたはずなのに、過去の記憶にまつわる街そのものの喪失を余儀なくされた子供は、空っぽのただ、泣いているだけの人形になり果ててしまった。自我が壊れてしまった。その時、彼女と交わしたのだ、「永遠の盟約」を。そして悲しみのない無限の世界へと旅だった。その心理的流れは、つまるところ彼の夢の世界でも引き継がれる。

 なにげない日常の中にいるオレ。折原浩平は、ごく普通の高校二年生としての日常を繰り返していたが、不意に自分の中にもう一つの世界が生まれたことに気付いて違和感を覚える。やがて、自分の周囲の人たちが記憶に障害を追ったように自分のことを忘れてゆき、何気ない違和感は現実的恐怖へと変わる。いつまでも何も変わらないと思っていたものが、総崩れに壊れていく。愛しい人の手を取り、せめてその「絆」だけは失わないようにしようと頑張る浩平。かろうじて、「絆」を持てた彼女は彼のことを覚えていてくれるが、けれどもやがて、浩平の肉体そのものが消失してしまい、残ったのはただ、彼に関する少女の心の中の「記憶」だけとなってしまう…それはまるで、みさおの呪いのようだ。

 このストーリーの二重性は、ある意味で浩平自身が「えいえん」の中で自分自身に規定しているものなのかもしれない。循環させている自らの過去への邂逅と、その消去。その無限円還運動こそが、彼という羊の夢なのではないか。何しろ彼はもう帰ってこられない存在なのだから、せめて可能なのは、「えいえん」に覚めない夢を見ることだけなのだ。幸せな夢を見ることだけなのだ。みずかとともに。

 

そして「ぼく」は、幸せだったんだ。

 

 とても幸せな夢だった。かみしめるような夢だった。彼女と居られたひとときが、どんなにか「ぼく」の心を救ってくれたことだろう。「絆」を求めたことが「ぼく」の魂を再生させる。それこそ、大人になった自分が本当に求める夢なのだ。ほんとうに愛する人と居られることが、どんなに幸せなものなのか、その体験は教えてくれた。家族との「絆」…。恋人との「絆」…。それに気づいたとき、本当に大人になったかどうか、わかるんじゃないだろうか。親よりも兄妹よりも、お互いを求め合う異性との「絆」のことを、「ぼく」はもう、忘れようもない。

  <滅びに向かって進んでいるのに…?>

 滅び……。そうだね。人と人との絆というものはいつか、失われてしまうものだ。人の一生ははかない。ましてその気持ちは移り変わるものだ。「絆」は、所詮、めぐる季節とともに変遷するだろう。いつまでもずっと同じものではいられないだろう。そして、「絆」を求めるぼく自身の命も、最後は訪れるであろう「滅び」にむかっている。だけど・・・ いや、だからこそなんだよ。

 だからこそ、尊いのだ。

 失われることがわかっていても、その中で限りなく求め合い、つながり合うこと、それが命という限界を持つ人の生の尊さなのだ。だからこそ、「ぼく」は求めたんだよ。終わりゆく自分の世界を見据えながら、それでも尚、求めずにはいられなかった。それは結局、「ぼく」がこの世に生きた証だからだ。その中に、永遠はあったからだ。本当の永遠は、「絆」の中にあるんだよ。そのことに長い間、気付かずに来たんだ・・・ それを、知っていたから「ぼく」はこんなにも悲しいんだよ。滅びに向かうからこそ、すべてはかけがえのない瞬間だってことを。

 終わる日を前にし、ぼくはその日常の尊さを噛みしめた。日だまりの中で彼女と過ごす一瞬一瞬が、かけがえのないものとして感じられる自分を知った。ぼくと彼女は、お互いに与えられた時間を本当に、絆を結ぶために使おうと思ったんだ。この貴重な一瞬のことをけして忘れないよ。輝いていた、日常のことを、忘れないよ。滅びに向かう生命の中で、変わってゆく季節の中で、なにげない一瞬一瞬の魂のふれあいこそが、本当のえいえんなんだからね・・・

 それをあの時の「ぼく」は、とてもよく知っていた。命の真実として噛みしめていた。それを思うと、今、ぼくはとても悲しい。ここにいる「ぼく」はなんなのだろう。こんな「えいえん」の形にすがってしまった「ぼく」とは、なんて悲しい存在なのだろうか。なんて無力なんだろうか。滅びこそが、人にとっての真実なんだ。終わることの出来る時間こそが、生命なんだ。そんな当たり前のことに、今ようやく気付いた。だから「えいえん」の世界の存在である「ぼく」は、「ぼく」自身が悲しくて仕方がないということなんだよ・・・ こんな永遠なんて、もういらなかった。

 いらないよね。失われゆくものの輝きを「ぼく」は知ってしまったもの。失われて悲しいことよりも、もっともっとすばらしいことが失われるもののなかには存在するのだもの。それが悲しみに向かう道でもいいんだ。いつか悲しいことが待っていても、それだけじゃないんだからね。ずっと同じ場所にとどまっていたいと願った幼い日の「ぼく」はまちがっていた。「ぼく」はみさおとともに過ごした輝く日々の本当の意味を、取り戻したんだ。だから、もう、「えいえん」なんていらない・・・ だからこそ、あのとき「ぼく」は「絆」を求めたはずだったんだ。

 「えいえん」の中に「絆」はない。「えいえん」は止まっている世界だから。自分だけの世界だから。魂と魂が出会うところには、「絆」がある。それは変化するもののなかにだけ結ばれるものだ。そして互いの魂に終わりがあることを知っているからこそ、一瞬の中に輝いてくれる。「ぼく」は夢を見ていたあの時、「えいえん」を離脱してそれを求めた。「えいえん」はもう、「ぼく」にはいらないものなんだ。本当に欲しかったのは、彼女との邂逅の刻だったんだよ。お互いの「絆」を確信したとき、「ぼく」は最高の幸せの中にいた。「絆」を信じ、必ず戻ってくるよと約束したんだ。 だから・・・

…オレは。

 その世界へ帰る。帰ろうと思うんだよ・・・

 

【びゅーてぃふるどりーまー】

 〜ゆめのはなし〜

 

 「えいえん」に向かう世界の構造についての読解は以上だ。基本的に無理な部分は一つもなかったと思う。折原浩平は幼い頃に最愛の妹を失うというとても辛い体験をし、あまりにも辛かったその思いが彼自身を壊した。毎日ただ泣くだけの生活が続き、虚無の状態へと自閉するうちに、いつしか泣いているその理由すらも忘れ、ただ、ロストした「えいえん」を求めるだけの存在になり果てていた。そんな折り、ふと隣にいたのは謎の少女。彼女は「えいえんは、ここにあるよ」と言って小さな浩平の唇にちょんと自分の口を当て、二人はその「えいえん」の世界でずっと一緒に暮らす「盟約」をしてしまう。少女の連れていった「えいえん」の国では、「ころころ」と懐かしい音が僅かに響いていた。だからそこは、妹のみさおが生前に遊んでいたカメレオンのおもちゃの内部なのかもしれない。「えいえん」は、少なくとも浩平の涙を癒すものではあったが、同時に空虚さをも広めた。いつまでも無限に循環する外の世界を止まった視点で見つめ続ける主人公。そこには時間はなく、全てがもう終わっているのだという。浩平は、源初の世界を想像させる無限の海の中で、島を求めてどこまでも泳いでいくあわれな羊になった自分を思う。果たして羊はどんな夢を見るのだろうか?

 長い長い時間が経った。そして止まっているはずの時間の中で、自分自身が作り出しているはずの悲しい風景の前で不意に何かを思い出し始める。なだれをうったように蘇る記憶。そして、封じ込めた筈だったもっとも辛いみさおとの記憶を取り戻したとき、同時に今まで夢を見ていたことをも思い出していた。夢から覚めるまでの間、自分は夢の世界から消える予感に抗いながら懸命に人との「絆」を求めたのだ。その時はじめて気が付いた。今、自分を取り巻く「えいえん」というものが、小さな子供の欲しがるようなキャラメルのおもちゃに類するものであることに。いつしか大人になっていた「ぼく」は、人との「絆」の大切さを思い、傍らの幼いままの姿の少女を見据えながら、こんな「えいえん」なんてもういらなかったんだと盟約の破棄を宣言する。そして…「奇跡」を起こし、夢の中の肉体を再生させて再び、浩平は蘇るのだ。「絆」を結んだ、その人の世界で。

 さて、既にお気づきであろうが、『ONE』のシナリオを占めること95パーセント以上の折原浩平学園ラブコメ日記は、単なる夢というオチでは完結できない。ただそれだけではだめだ。なぜかというと、それは浩平だけの夢の世界ではなかったからだ。トゥルーエンディングを一度でも迎えたことがあれば気付くことだが、最後の場面の描かれ方というのは主人公・折原浩平の主観の側からのものではなく、逆に彼を迎えるヒロイン達の視点で書かれているからである。この事実について、「TACTICS HP」のファン会議室では是非を巡って延々と泥沼の議論がなされていたようだが、問題はスタイルの是非に関わる些末なことではない。そういう書き方がゲームシナリオとしての文法に沿ったものかどうかはおくとして、世界観が別の誰かの視点でもって補強されていることが極めて重要なのである。別の誰かが浩平を見つけるということ、それは今まで一人称で進んできた私小説的世界を一気に客観としての世界へと引き上げる。別の誰かがそれを見ているということは、確実にその人の世界は客観的実在として間主観整合的に保証を得られるからだ。『ONE』が絶対譲れなかったもの、そいつはおそらく、ヒロイン達との美しき「絆」の物語を単なる一主格の内部に閉じこめた夢というオチに還元せず、そこにちゃんと存在する事実世界として客観化したいという高度な欲求だろう。従って感動のトゥルーエンディングは、帰ってきた浩平が自ら少女達に会いに行く話であってはならない。それは確信犯的に、彼以外の人間の視点で書かれるべきだったのである。

 はてさて、困った。夢は夢でなくなってしまった。だとすればそれは、すなわち浩平の日常という世界は、問答無用に実在の世界なのだろうか。やはり「えいえん」の世界の方が夢だったのだろうか。浩平は、現実世界から内的記憶世界の夢へと自分が幼い時にかけた暗示に従って、消えてしまったのだろうか。実際、そういう解釈をする人たちが『ONE』ファンの間では圧倒的に多いのであるが、問題の発端を主人公の精神内部に持っていこうとすると、今度はその精神世界の中で閉じた話になってしまうので、同様に、先ほど客観化された現実の日常世界の中で物理的存在であったはずの主人公の肉体が忽然と消失してしまう、というマジックを説明できない。「えいえん」の世界の存在は、確実にもう一つの日常世界に対して、物理的影響力をもたらすものなのである。ラブコメ世界を完全に主観還元できないのと同様に、「えいえん」の世界も等しく主観還元できない。この論理的アンビバレンツにたぶん、多くのファンがはまりこんで身動きできないでいるのが現状なのではなかろうか。未だに明確な解釈を与えた文章を読んだことがないので、以上の点は未解決問題として一応扱いたい。

 ところでこういうことは可能なのだろうか。ある人の夢の中に、自分も入っていく。自分もその人も同じ夢を見る。つまり、二人の人間が、同時に同じ夢を見ることでその世界において出会い、同じ一つの世界を共有するということ。そういう夢というのは見られるものなのだろうか?

 夢が常に主観的なものと思われているのは、その夢がその人にとってだけのものであるからということで、もしも他の誰かが全く同じ夢を見ていて、お互いにその中で出会うことが出来たら、それは少なくとも二人にとっての「客観」と言い得るのではないか、ということである。胡蝶の夢の例えをひもとけば、自分は蝶になった夢を見る。その中には別のもう一匹の蝶がいる。それはどうやら自分の恋人らしい。どういうわけか二人とも蝶になった夢を見ているのだ。時を同じくして全く同じ夢の世界を共有することで、二匹の蝶は楽しくお花畑を輪舞しながら、甘い甘い恋の歌を交歓する。二人はそれが、現実の世界よりもはるかに心地よいひとときだと感じる。もしもこちらの世界の方が現実であったなら、それはかえってお互いの幸せかもしれないとすら思えてきたとする。さて、二匹の蝶は、夢から覚めるべきなのだろうか? あるいは、その夢は覚めることが出来るだろうか? はたまたどちらか一方の夢だけが覚めてしまったとしたら、取り残された方の蝶は、どんな思いをするであろうか……。

 もしも、もっともっと多くの人たちが同じ夢を同時に見ていたと仮定してみよう。例えば街全体の人が、同じ夢の中にいたとしたら、彼らはやっぱり、お互いに自分の生活をその中で営みながら、結局もとの街全体としての夢を見るのではないだろうか。中にはそれが夢なのだと気付かない人も出てくるだろう。自分が夢を見始めた時のことを忘れてしまう人も出てくるかもしれない。そうして、みんなが同じ一つの夢を見ているとき、その夢は果たしてそれでも確かに夢なのだろうか? メンバー全員がそれが夢だと知っている必要が果たしてあるのだろうか? やがて、夢から覚めた人が一人一人その街から消えはじめるような事件が起こらない限り、それを夢だと自覚する必然性などどこにもないかもしれないのだ。つまり、みんなが同時に見る夢ならば、それもまた、「客観」と呼べる代物であるにちがいないという仮定的なお話しである。

 少なくとも6人の女の子が同時に夢を見ていたとしよう。6人は、それぞれ共通の夢の中で、朝起きて顔を洗い、髪をとかし、朝食を食べて、服装を整えてから登校する。そういう夢の話だ。彼女たちはそれが夢だということはつゆぞ知らない。知っている必要もない。それぞれが自分の思うままに行動し、クラスメートならば教室で出会い、同じ学校であれば昼食時に学食のテーブルで出会い、別の学校であれば放課後の帰り道で出会って話をする。むろん内容はほんのとりとめもない、年端もゆかぬ女の子特有のぺちゃくちゃ話だ。そうして話し飽きたら、自宅へ帰って晩御飯を食べ、TVを見て宿題をやって眠る。眠っている時、何か別の夢を見たりするかもしれないが、すぐ忘れてしまう。そうして、毎日毎日がエンドレスに続く、夢。ふとそこへ、男の子が現れる。彼も夢を見ている。寝起きは悪く、しかもだらしがなく、やることなすことがはちゃめちゃである。しかしにくめない。どうやら毎朝誰かが起こしてやらなくてはならなさそうなので、一番家が近い女の子がその役を引き受ける。二人は毎朝一緒に登校する。クラスもどういうわけか同じだ。いつもいつも顔を合わせているうちに、なにがしかの心の絆が芽生えるかもしれない。だけどそれはわからない。運命の選択肢がずれれば、彼は別の女の子と絆を結ぶかもしれない。わからないのだ。ただ、わかっているのは、たぶん彼が一番夢から早く覚めるであろうということ…それは予感であり、確信だ。

 顔見知りのメンバー全員が、クラスメート全員が、学校の生徒全員が、はたまたその街の住人全員が、同じ夢を見ているのだとしたら、それは疑いようもない客観である。なぜかというと一般に客観と呼べるものは間主観的な整合世界のことであって、本当の客観であるかどうかの確証もないまま、主観の突き合わせで人は生きているからである。客観かどうかは、その世界の内部では絶対にわからない。お互いの認識する世界に不都合がなければ、それがみんなの住んでいる客観世界だと了承して生きてゆくより仕方のないものなのだ。もし、どうしてもそれが夢かどうかを知りたいのならば、自分がその夢から覚めてその世界の外側へ行くしかないだろう。外側から眺めてみれば、その世界が全体的な一個の夢だということ、あるいは誰か特別な人の夢の中にみんなが居候していることがわかるかもしれない。そういうことのわかる可能性がある「えいえん」という外側、それはしかし、それこそが自分一人だけの夢の世界なのかもしれないと、そんな恐ろしい真実に気付き、がっくりとうなだれるのがオチなのではないだろうか。結局、みんなが見ている覚めない夢は、まぎれもない現実なのだ。そして現実と思っていることも行き着くところは夢なのだ。人生というのはうたかたの夢のごとしと昔から言われているが、それは夢だと実感する方が遙かに人間にとって自然なことだからなのだろう。人の一生には限りがあって、始まりと終わりがある限り、それは間違いなくどこかからやってきて、またどこかへと旅立つ日が来る。おぎゃーと生まれたときから長い長い夢を見はじめて、老いさらばえてもうこれでよしとその夢から覚めることと、なにも違いはなかったりするのである。問題は、魂をどちらの側に置いているかということなのである。魂を…それを自分の意志で置いている側の世界が現実で、そして一時的に旅立っている世界が夢ということなのではなかろうか? そういう死生観を、ちょっと考えてみて欲しい。魂がそこになければその夢は覚め、みんなの見ている夢の世界の視点から見れば、その人は一人だけ消えてしまうことになりはしないだろうか。あるいは無関心な夢見る人々にしたら、彼が消えたことにすら気付かないかもしれない。そんな人は初めからこの世界に存在しなかったも同然と解釈できるからである。

 さて、『ONE』のキーパーソンである氷上シュン君に登場して貰う準備はそろそろ整った。ぼちぼち彼に会いに行ってもいい時期に近づいたようだ。彼は唇を蒼くして、寒空の下であなたが探して訪れるのを待っていてくれるだろう。挨拶の言葉は携えた? 今日はきっと特別な日だ。心を込めて、親愛の情を込めて、会いにゆこう。世界で一番最短時間で親友になれるはずの、同じ目をした心の友へ。メリークリスマス!

 

【ふしぎのくにの、ひかみくん】

 〜ものがたりのせかいかんをせつめいする、ひつぜんのきゃらくたぁ〜

 

 『ONE』の企画書において、ゲーム内容を説明した項目の中に以下のような記述が存在する。

 

「また、自分の中に構築されてゆく世界、その住人である少女、それらが何であるかも、紐解かれてゆく分岐も存在する。」

 

 明らかにこの謎解きの分岐とは、氷上シュンシナリオのことを言っているものだろう。氷上は、一旦誰かとのトゥルーエンディングを迎えた後、放課後に部室へ通い続けることでようやく会える上に、七瀬イベントでクリスマスの逢い引きを蹴ってまで学校の屋上へ会いに行かないと最後までお目にかかれないという、非常に厳しい条件付けがなされている。ということは、当初の予定では彼が、この『ONE』の世界観のからくりを全て説明してくれる「隠しキャラ」のはずだったと思われるのだが、残念ながら結果はプレイしてみた通り、「こんにゃく問答」を繰り返す「おかま」キャラクターに堕してしまっていた。正直なところ自分としても彼の言動はますます混乱を招くものだったので、ここで全ての謎解きがされると信じてプレイした身にとっては、本当に「そりゃないよ、シュン君」て気持ちにさいなまれたものだ。概してこの手のキャラはそういうものなのかもしれないが、なぞなぞばかりでこたえを教えてくれないと、とにかく意地になって回答を見つけてやろうという気になるのも事実である。最後まで種明かしをしなかったことが、『ONE』の世界の深みを更なる魅惑的混迷の渦に叩き込んだのは確かなことなのだ。なかなか意地悪なやつだと思う。

 だが、今、ここまで読み進めた上でもう一度彼の言葉に立ち返れば、もう少しなんとかなるってもんじゃないだろうか。少なくとも言葉の端々に含みおかれた彼の意図する事実ぐらいはくみ取れそうなものである。以下、重要だと思われる箇所について抜き出してみる。

 

氷上「ほんとうなら、もっと早く僕たちは友達になっておくべきだったね」

氷上「実際、それで僕たちは互いを救うような結果になっていたかもしれない」

氷上「でも、もうあまりに残された時間は少なすぎる」

氷上「それとも、その短い時間の中で、ふたりで試してみるかい?」

浩平「…何を?」

氷上「どこまで相手を愛せるかをさ」

浩平「冗談はよせ」

氷上「そういうことだよ。僕たちは、友達でしかいられないんだ」

氷上「まあ、キミにそれ以上の意志があるなら、僕は応えてみてもよかったけどね」

浩平「………」

氷上「とにかく、握手ぐらいはしたいな」

浩平「………」 オレは無言で手を差し出した。 氷上も手を伸ばし、それを握った。

氷上「よろしく。同じ目を持った友達」 手が離れた。

 

 まず第一に言えることは、氷上はカマであるということだ。…いきなり身も蓋もないものだが、そうであるのだから仕方がない。本当のところ、彼は浩平とのつながりを持ちたがっている。もっと深く言えば、本気で「相手を愛せるかどうか」という試練の時を浩平と持ちたがっているのだ。むろん、浩平はカマではないから、そんな欲求は筋違いというものだ。その辺が氷上にも当然わかっているから、手を出そうとしないだけのことであろう。ただ、重要な点は、もしも浩平がその気になって二人が手に手を取り絆を確かめ合うことが出来たなら、お互いを救うような結果になったかもしれない、というセンテンスだ。また、氷上が言うには、浩平の目の色と氷上の目の色とは同じ色をたたえているという事実。この意味合いするところは大きい。実際似た瞳をしているということではない。二人が、同じ経験的立場におかれた人間としての瞳を持っているということだ。ご存じのように浩平はこの世界ではかなり変則的な存在である。いわば、あって、ない。そういう夢のような存在であるはずだ。従って、そんな浩平の立場を見透かして、あまつさえ自分と似ているとまで言い切るということは、氷上という少年も類推するにこの世界に、あって、ない、変則的な存在であるということになる。浩平が自分の存在の危うさに気が付くよりも遙かに前に、彼の話では一年以上前の部活の顔見せの時から、浩平の中のそれに気が付いたということだから、氷上の直感能力は極めて鋭利なものといえる。また、他の誰でもなく浩平に興味を持っているというのも、両者が運命を一にしている事実を既に悟っているからだと言えよう。本当はもっと早くから友達になっておきたかった。だが、運命の事実をありのままに知っているだけに、その「一緒に救われる」という選択を自分の方からし向けることには、抵抗があった。浩平の方が自発的に求めるならば、あるいはそれが可能であるという事実だけを述べているのだ。(むろん、浩平にとってみれば、冗談はよせ、ということになる。)

 救われる、というのは、お互いに絆を求め合えば、この世界にきちんと戻ってこられるという意味だろう。一つでも女の子達とのトゥルーエンディングを終えていれば、その意味は明瞭かもしれない。また、もし茜シナリオを進めていれば、この世界で浩平と同じ運命を担って生きている者が他にも居たことをはっきりと知ることになる。それは、消えゆく運命に瀕している男にとって、見逃しがたい事実だ。そうして、同類の男が実はこんなところにもいたのである。氷上も、「えいえん」に魅入られた人間の一人なのである。だから、ここにいる。それが、「えいえん」の与えた試練。

 …どうでもいいが、『ONE』が女性ファン向けにも作られている事実を知って、ちょっとめまいを覚える時だ。氷上が本当に女性受けしているのかどうかは知るところではないが。

 

氷上「つまりキミに今必要なものは、人との絆ってわけだ」

浩平「絆ね…」

氷上「いつだって、奇跡は人との絆が起こすものなんだ」

氷上「それが今のキミを救ってくれる唯一のものなんだよ」

浩平「………」

氷上「でも僕は絆なんて求められるほど、人が好きじゃないんだ」

氷上「ただ、こういった状況になって初めて、キミとだけは友達になりたいと思ったけどね」

氷上「キミも、もう少し時間が経てば、わかってくれるんじゃないかな。僕の気持ちが」

浩平「どうも、おまえとは思考が違うようだから、永遠わからないと思うけどな」

氷上「まあ、それだっていい。もとよりこれは余興なんだからね」

浩平「変則的な邂逅ってやつか」

氷上「そう。あまりに僕が影響力を持ちすぎてもいけない」

 

 つまり、この世界に迫る危機を救うもの、それは人との絆であると、氷上は端的に言う。トゥルーシナリオファーストプレイの時、浩平がなすすべもなくこの世から消えて呆然としている間にエンディングが流れ、FINという文字が出たと思ったら、また女の子の元に帰ってきたというシナリオを当然ここに到る前に体験しているはずのプレイヤーは、そこでようやくゲームのシステム上のテーマをはっきりと理解する。パラメーターは絆のレベルとして記録されていて、どれだけお互いが絆を求め合ったかということで、ラストの展開が決まるものだということに気付くことになる。シナリオ上の奇跡は、人との絆が起こす。また、奇跡が起きなければこのゲームは永遠にループして主人公は救われないだろう、という予言である。だから、浩平は絆を深める努力をしなければならない。人との絆を持つことが今の己を救うことになると、この段階で知るべきなのである。むろん、浩平にその言葉の真意が伝わったとは思えない。氷上は、言葉と立場を選ぶあまり、相手の理解力というものを考慮しなさ過ぎる。というより、わざと状況をはぐらかしている物言いにすら聞こえる。つまりはそれだけ、相手に対して影響力を与えることをおそれているのだ。そこに責任を持つことをおそれているのだ。そのことは続く言葉にもわかる。

 

「でも僕は絆なんて求められるほど、人が好きじゃないんだ」

 

 自分もまた、絆を求めれば、救われる可能性があることを自覚している。しかし、氷上は人間が好きではないという。その、好きではないという感情の裏側にあるものとは、人間に対するおそれと不安とも取れるだろう。人と関わることをおそれ、人に影響を与えることをおそれ、人との絆から派生する責任というものをもおそれる。それが、逆説的にせよつまるところ彼がここにいる理由のように思える。彼がこの世界に迷い込んだのは、前の世界で人との関わりを自ら断ち切ってきたことに起因するのではなかろうか。そいつは、彼独特の個人的なシナリオ上の悲劇である。ただ、こういった状況になってみて、流転する自分の存在の迷宮の中で、おそらく自分と同じ運命をしょって同じように流転している輩のことを、初めて友達としてみたいような気がした、ということ。それが、たった今浩平とこのように内容意味不明の会話をしている理由なのだ。氷上は、見かけよりも相当にシャイなやつである。さらには、浩平以上にストイックで、浩平以上にシビアな状態にいる。世界への拒絶の仕方が、浩平のもの以上にドラスティックなものだったことを予感させる。

 だが、本当に覚めているのも事実だ。結局、二人の邂逅は彼にとって、一応の興味あるものだけれども、運命的なものとは見なしていない。やっぱり余興にすぎないことを予感している。運命的なものにはなりえない、あるいはもしそうなったとしても、そいつはメインのシナリオではないことを自ら宣言している。実際ゲーム上、氷上エンディングは七瀬イベントのバッドエンドとしての位置づけになっているのだから、彼のいわんとするところもおおよそ当たっていると言えるだろう。氷上の存在はあくまで遊び、そして状況をより明瞭に浮き立たせるための狂言回しにすぎないのである。カマの狂言回しである。

 

氷上「もう僕はキミに影響力を持ってしまってもいいと考えた。その上で話すよ」

浩平「ああ」

氷上「キミはこれから違う世界へと向かおうとしているね」

オレは黙っていた。言葉を失っていた、というほうが正しいか

氷上「どうしてそんなことがわかるのか、今から教えるよ」

浩平「………」

氷上「それは、『誰にだって訪れる世界』だからだよ」

氷上「だから僕にだってわかるんだよ、それが」

氷上「何もキミだけが、幻想の世界に生きているんじゃない」

氷上「誰だってそうなんだよ」

氷上「すべてが現実なんだよ」

氷上「物語はフィクションじゃない。現実なんだよ」

氷上「わかるかい、言っていることが」

浩平「いや…」

氷上「じゃあ、現実との接点をひとつだけ提示しようか」

浩平「ああ…」

氷上「…家族に大病を患ったひとがいないかい」

浩平「………」

氷上「繋がったかい。現実と幻想が」

浩平「かもな…」

氷上「…最後の話しはこれで終わりだよ」

 

 クリスマスの日、校舎の屋上で彼は待っていた。特別な日に探してくれというのは、そういう意味だった。寒さに震えながら、青ざめた唇で彼は立っていた。まるで、命を粗末にする者のように、彼は自分の肉体をわざと過酷な環境に置いて、浩平が会いに来るのを待っていた。もし会いに来なかったならば、たぶん人知れずそこで死んでいたのだろう。もとより覚悟の上だ。なぜなら、もう、この命は燃え尽きようとしていたからだ。ならば、その、限りある命をせめて絆の為に使えたら…唯一自分が求めた絆のために使えたら、この世に現れた意味を少しは実感できるかもしれない。ぼろぼろになってしまった体が極限まで冷え切り、命のともしびを不安に揺らすその時も、氷上は十分に充実した時を送っていたのではないだろか。身を切るような寒空の下で、凍てつく手足を省みることなく待つことが、彼なりの絆の求め方だったのである。ここに今、存在している自分の命の意味だったのである。

 浩平がそこへ現れたこと。それは、浩平が誰かとの絆を犠牲にしてここにやってきたのだという、物語上のカラクリを氷上は知っている。だから、その気持ちに報いるために、はぐらかし続けていた回答を、自分なりに浩平へ伝えておいてあげようと思ったのだろう。たぶんそれを知らせてしまうことは浩平の運命に多大な影響力を及ぼすのだが、真実を知ることを求めたのは他ならぬ本人なのだから、もう教えてしまってもいいんだという気持ちになれたのだ。

 

「キミはこれから違う世界へと向かおうとしているね」

 

 …違う世界。浩平にとってそれは、「えいえん」の世界。浩平が望んだ世界。浩平だけの世界。の、筈だった。しかし、その世界の存在を彼もまた知っている。浩平が絶句したのは、そういう理由からだ。けしてそれを知り得ぬ者が、なぜこの先の運命を指摘しうるのか? その回答がえられず、浩平は絶句したのだ。「えいえん」の中に居ない者が「えいえん」に言及すること。それは、ありえないことのように思えた。返す言葉のなさは、たぶん、茜から茜の恋人が雨の中で消えた話を聞いたその時の衝撃に匹敵するものだろう。この世界には、それを知っているものが他にもいる。同じ運命を持った人間が他にも存在する。その意味するところは極めて大きいように思える。そいつはつまり、同時に、「えいえん」という世界の「客観化」をも意味する。そこへ向かうことを認識している他者が居るということは、そいつは自分の心が勝手に生み出したイリュージョンではないという、現実的重みをもたらすものであるからだ。「違う世界」へ向かおうとしていること、それは単なる精神世界へ還元されざるリアルな事象だったのである。

 

「それは、『誰にだって訪れる世界』だからだよ」

「だから僕にだってわかるんだよ、それが」

 

 浩平が今から行こうとしている「えいえん」の世界。氷上はそれをなんのためらいもなく予言して見せたが、同時にそれは「誰にだって訪れる世界」だと、言った。だからそれがわかるのだと。この含蓄は恐ろしく深い。『誰にだって訪れる世界』のことを、一般になんて呼ぶだろうか? この世界を旅だって、次に向かう世界のことを、だ。来世。冥界。幽界。浄土。あの世・・・決定的なのは、「誰にだって」訪れるこの世のエンディング、「死」のビジョンである。その、この世の彼岸を越えた世界のことを、浩平の今から行く世界だと規定してみせた氷上−

 −実はこの、今までの『ONE』に関する論述で、自分としてはそれだけは表現として使うまいと考えてきた言葉なのだが、しかしこれだけ明瞭に書かれてしまってはもはや、避けて通ることの方がわざとらしくなってしまうだろう。だから、書く。浩平も、そしてそれを既に知っている氷上も、一度「死んで」いるのだ。過去に、この世を旅立った者達なのだ。そういう解釈以外に世界観の解決は不可能である。「えいえん」とは、そういう意味での文字通り「終わっている世界」なのである。一度でもそれに魅入られた者は、逃れられない世界。そしていつかは誰にでも訪れる世界。あるいは、人がそこから生まれてくる世界、…ということでもある。無限円還の中で、終末はまさしく始まりとも言えるからだ。それが、「えいえん」の正体である。

 

「何もキミだけが、幻想の世界に生きているんじゃない」

「誰だってそうなんだよ」

「すべてが現実なんだよ」

「物語はフィクションじゃない。現実なんだよ」

 

 『ONE』はメタフィクションであると前にどこかで書いた気がするが、それを端的に言い表す氷上の言葉だ。元々氷上は、物語の論理的構造に触れることを物語内部のキャラクターでありながら言及してしまうというメタフィクショナルな存在であるが、その役割が最も炸裂しているのが上の台詞なのではないだろうか。これを、浩平に向けられた言葉と取らずに、ゲームをプレイしている最中の自分に向けられた言葉として捉えれば、その言わんとする意味が最も良く見えてくるだろう。「えいえん」は、誰の身にも等しく訪れる、逃れることの出来ない人間の終末なのだ。ここでは人という存在が等しく「えいえん」に向かうべき定めにあるというリアルな問題を扱っている。そういう世界観を、単なるテキスト中のストーリーを越えてそれを読む人にまで呼びかけるような仕組みを、氷上の発言は帯びているとも言える。

 これまで、「えいえん」とは浩平の心の中の話であった。「えいえん」は、ちびみずかとともに、盟約を交わした浩平の中にだけ存在するような幻想の世界と捉えることが出来た。それが浩平の身に及ぶリアルな特殊条件として、あくまで彼一人が背負うべき世界なんだと了承することで、単なる一個人の幻想の世界として位置づけすることも可能であった。しかし、そういう規定性を「誰にだって訪れる」という形で一般化してしまったことは、ひょっとしたらあなたの身にもそれは訪れるかもしれないんだということを寓意として導き出しているのだ。物語が、単なる物語であるとする根拠はない。少なくとも氷上がいる世界ではそういう「えいえん」と呼ばれる世界が外部に実在して、誰もがそこへいずれは旅立つという基本的な構造が確定されてしまっているのだから、「えいえん」はここでは完全な客観。しかも、存在する全ての人の、実在の根拠ですらある。

 「えいえん」とは何か? それは、夢の始まりの空間だ。与えられているのは、魂。そこで、「えいえん」の夢を見る。見終わったら帰ってくる。それだけの話だ。夢は早く覚める人もいればゆっくり覚める人もいるが、早く覚める人の魂は先に夢の中では消えて無くなり、ゆっくりな人は先に消えた人を思いながら残りの余生をすごす。そういう形で営まれるリアルな日常という「夢」が、人生と呼ばれるものだ。「えいえん」の視点で見れば、それは夢だ。覚めなければならない、期限を定められた夢なのだ。単なる羊の夢だ。けれども、夢を見ている人たちにとっては決して幻想では片づけられないリアルな現実だ。裏を返せば、夢こそが現実だ。物語はフィクションじゃない。現に多くの人間が毎朝目覚めて、家族と会話して、学校へ行き、恋人と出会い、別れ際には手を握り合うような、そういう堅固な日常という名の現実世界の中に生きている。言い換えるなら、『ONE』に表現された全ての会話と日常社会も、紛れもない現実と呼ばれるべきものなのだ。幻想の衝撃。それは、「えいえん」をこそ人の世界の基盤とする、基本的な人間観に基づいている。単なるフィクションではない、人間という精神体についての、唯心的なものの見方に基づいているのだ。

 

「じゃあ、現実との接点をひとつだけ提示しようか」

「ああ…」

「…家族に大病を患ったひとがいないかい」

「………」

「繋がったかい。現実と幻想が」

「かもな…」

 

 氷上は浩平のことをどれだけ知っている存在であったか? おそらく、本当は何の予備知識も携えていなかったはずだ。ただの軽音楽部のクラブメンバー、それだけの関わりでしかない。一つだけ接点があるとすれば、お互いが似たような目を持っているということだけだ。それも、目の色や形が物理的に似ているということじゃない。つまりはお互いの境遇が、全く同じであるところから来る、存在の類似性とでもいうべき相似体が、この二人なのだということ。従って予想されるのは、氷上シュンも、「えいえん」へまもなく行くべき存在であるということ。逃れられないルールが身の上に迫っているということ。そうして、他人よりもこれだけ早く「えいえん」のもとへ旅立たねばならないという運命のわけは、この世界にやってくるよりも遙かに昔、自分で自分の世界を終わらせてしまったか否かという選択性に帰着する。承知の通り、浩平は傍らの少女の誘いによって、「永遠の盟約」を結び、自分で自分に魔法をかけて「えいえん」へ旅立った。それと同じく、氷上が非常に限定的な辛い条件下において、自ら「えいえん」を願い、そこへ旅立つために自分の生命を終わらせたとすれば、つじつまは合う。であるから、浩平も氷上もこの世界では、「消える存在」としてあるんだということをようやく了承できるのだ。

 「現実との接点」とは何だろう? 浩平が最後に氷上と出会ったのは12/24。クリスマスの日。この段階で、通常浩平は、自分の本当の過去を思い出してはいない。しかし、一度でもエンディングまで行った人ならわかっていることだろうが、彼には大変辛い過去があり、その悲しみから逃れるために「えいえん」へ旅立ち、結果として今、ここに「滅びに向かう日常的幻想」を送っている。物語が現実へとつながるためには、そうした辛い過去を思い出すことが必要となるわけだが、現実と幻想が同時に「現実化」するためには、その物語に出てくる登場人物の誰かが、浩平の逃げてきた辛い現実と何らかのメタフィクショナルな接点を提示することが決定的な有効打となる。

 …ちょっとわかりにくいが、もう一度具体的に説明してみよう。浩平は今、現実へ帰ろうとしている。「えいえん」へ帰る道筋は、現実の記憶の再生である。みさおのことを思い出したとき、浩平は「えいえん」こそが現実であったことに目覚める。一方、氷上は浩平にこの世界で、ここもまた現実の世界であることを教える。なぜなら彼は、「えいえん」の世界とこの世界の両方をまたにかけて死と再生の流転劇を過去に連綿と繰り返してきた猛者だから、そのことを既に熟知しているのだ。もし、今お互いが見ているこの世界をどちらかの主観的な妄想でなくして、共有される客観的実在として証明しようと思ったらどうすればいいだろうか? 氷上はそこで、自分がここに存在する理由を、かつての「現実世界」での「特別な体験」によるものだと浩平に教えたのだ。「えいえん」に旅立つ前の現実の中で、家族に大病を患ったひとがいたんじゃないかい? …ということを知らせたのである。

 おそらく氷上という人物も、過去にそのことが原因で精神的に縮退し、「現実」を拒絶して「えいえん」へ旅立ったに相違ない。それは、浩平と全く同じような過去であったとも言えるだろう。だから、二人の目の色は似ているのである。同じ悲しみの色に満ちている。同じ運命の歯車の上にいる。そして二人ともこの世界では特殊な存在であり、お互いが他のものと用意に見分けがつく人種なのだ。浩平は、「家族に大病を患ったひとがいないかい」と言われて、自分の中の本当の「現実的記憶」を覚醒させる。と、同時に、お互いの過去がその一点で類似していることを知り、「えいえん」を経由するこの幻想世界へのルートが彼の中にも存在する可能性をも知るのである。それはまさしく、幻想とおぼしき今と、過去の現実とが見事に繋がる一瞬であった。

 

氷上「…最後の話しはこれで終わりだよ」

氷上「そして、僕は多大な影響をキミに与えてしまった」

氷上「だから、その責任はできる限りとりたい」

氷上「僕に残された時間は、キミのために、キミのことを思って過ごすよ」

浩平「………」

氷上「思いが届くといいけどね」

氷上「僕の求めた、最初で最後の絆だから」

浩平「…ああ。頼むよ」

 

 二人とも、残された時間は少ない。その時間の使い方次第で彼らの命運は決まる。さらなる永遠流転たる円還の時を過ごすのか、それとも魂を解放されてこの世界へ帰ってこられるのか…。結果は、お互いの持てる「絆」次第だと言える。氷上は、自分と浩平とが同じような世界を旅していることを教えてしまった。浩平はそこからそれをどうとらえるのか? なによりも、本当の記憶を他者によって呼び覚まされてしまった限り、浩平にももう、戻る道はないのだ。浩平にも時間は無かった。「えいえん」は、もうすぐそこまで迫っていた。他の人との絆を結ぶ猶予はなくなっていた。それが、氷上の言う「多大な影響」ということの真意だろう。

 氷上は最初で最後の「絆」だと言った。彼は今まで誰とも「絆」を求めなかったという。それは、人間が好きでないという過去の発言からも容易に推測がつく。そもそも人間を好きになる幸福にめぐまれていたならば、初めから「えいえん」に魅入られたりはしなかっただろう。こんな形で、中途半端な半幻想半現実の世界をうろつくこともなかったはずだ。全ては自らの性格が招いた悲劇といえばそうだが、氷上の生き方には終始悲壮感がつきまとう。まして、この程度が最後の「絆」とは…彼はもう、二度とこの世界に戻ってくることはないということだろうか。それは運命への最後通告だろうか。きびすを返し、少年は消える。「えいえん」のたもとに消えていく…。

 

一ヶ月を過ぎた頃だった。氷上の訃報を知ったのは。

もとより、出歩けるような病状ではなかったらしいし、学校だって2年になってからはずっと休学していたのだ。

そんな中で、会っていたのだ。 同じ目を持ったオレと。

そしてやがてオレもいくのだろう、氷上が先に発った世界へと。

それは、誰にしもいつかは訪れる世界。

もしオレが、この体を再生させえるような、奇跡が起きたなら… そのときは氷上の奴に感謝しなくちゃいけない。

それは氷上との絆の中に生まれた奇跡なのだから。

 

 氷上は、この世界で死ぬ。死が、彼の周辺では具体的な事実となる。きっと葬儀もしめやかに執り行われたことだろう。氷上は、浩平のように消えたりはしなかった。2年という長い時間をかけて、衰弱し、この世で死という終末を迎えた彼は、一足早く「えいえん」へ旅立っていったのだろう。ただ、そこへ到ること、誰しもいつかは訪れる世界、それを具体的にこの世界では「死」という結末で呼ぶということを、身をもって示したのは衝撃であった。「えいえん」…それはやはり「死」であった。「えいえん」に魅入られるというのは、具体的には「死」に魅入られる、あわれな魂の彷徨のことだったのである。それは浩平にとってもたぶん同じ結論のように思えた。

 死すべき存在…その規定性は、遠い過去に自ら魔法をかけて「えいえん」へ旅立った、その方法に決定づけられているのではないかと自分は考えている。浩平の場合、それは明確な死という形式を取らなかった。彼は、「えいえん」に到る過程で、みさおとの思い出がつまった街を離れ、別の街へ旅立った。気持ちの上ではその街になんとか居残ろうとし、それが果たせず、ある日忽然と街から「消えた」のだ。きっと、彼のことを知っていた人たちもいつしか、あいまいな記憶の内に少年の面影を忘れたことだろう。そういう中での「えいえん」への旅立ちは、転じてこの世界に於ける、「見知った人たちがじょじょに彼のことを彼と気付かなくなり、彼に関する記憶が曖昧になり、やがて彼がそこに存在するということにも気付かなくなってしまう。そしてある日、彼の姿も忽然と消えてしまう」という、類似的に定められたシチュエーションをもたらすのではなかろうか。おそらくはそこが浩平と氷上の異なる部分なのだ。氷上は、たぶんその世界で「死」を望んだ。そして具体的に「死」を迎えた。ただその時、現実を拒絶する意識があまりにも強かったために、浩平と同じく「えいえん」に魂を取り込まれたまま、正常な形では戻ってこられなくなってしまう。「えいえん」に取り込まれる前と同じ虚弱なまま、再びすぐに「死」を迎えるべき運命を背負って、この世に現れてきていたのである。だから当然、その最後は客観的な「死」でもって結末がつけられるのだろう。浩平のような記憶崩壊が起こらないから、自身は辛い繰り返しの事実を明瞭に意識へとどめていたのである。また、自分がどういう構造にのみこまれているのかも了解していたようだ。それでも浩平が現れるまでは誰とも「絆」を求めようとしなかったのだから、本当に、見かけより強情なやつだ…。

 さて、氷上君が登場したことで、『ONE』の「日常」は、より鮮明にそのありようを示し始める。それは現実だと解釈しても構わないのだ。すなわち、「えいえん」という現実の上に成り立っている、人の生きている現実の世界である。「えいえん」と相補的に現れる、魂の発現する現実的空間なのである。ただ、時折悲しい事故が起こって、「えいえん」の側により強く惹きつけられ、あるいはそこに悪戯な魔法が介入して、「えいえん」の内部に人の魂を閉じこめてしまうような事件がありうる。そういった時、その魂は再生(リ・バース)の段階になってもそこから逃れられず、中途半端な形で「再構成された現実世界」へ戻ってきてしまうのだろう。本来なら赤ん坊の時から人生を再開すべき所、前世で閉じこもった内なる心が機能不全に陥って自己をリセットできなくなり、「えいえん」に旅立った時と同じ精神体でそのまま現れ、日常の狭間を彷徨う…。しかし、注意深く見てみると、彼は魂の片割れを「えいえん」の世界へ置き去りにしてきているので、あくまでそれは夢である。彼は実際の所この世には存在しない。この世にあって、ない、亡霊のようなものだ。夢見る幽体だけがさまよっている。それは、客観の側から彼という実在の幻影がイマジネーショナリーに認知されているだけの仮想体なのだ。いわば、実体的には不確かな霊気のようなものであるにちがいない。ある一定の魔法が継続する期間だけ、他の人々には彼の姿が見える。魂のない、実質のない像がそこに結ばれる。しかしタイマーが切れると、みんながそれを認識できなくなってしまう。強い「絆」があるいは、僅かな残された時間、霊気の残像を捉え続けるかもしれないが、次第に希薄化していく霊体はやがては虚空に吸い込まれ、再び「えいえん」での目覚めを得るのだ。海に浮かぶ羊の夢がさめる。そういうものとして、「消える」人間というものを想像できると思う。

 周りにいる人たちの大半は、現実の生活者であり、我々と同じ実在的人間ばかりである。けしてそれは、「幻想の世界」なんかではない。だからこそ、「帰ってこられる」場所なのである。「お帰りなさい」と。

 

【えいえんとにちじょうの、めたてきすとげーむ】

 

 以上のように『ONE』の謎解きを試みたところで、あなたの脳裏にようやく折原浩平の生きている世界がおぼろげながら浮かび上がってきただろうか? それとも話の複雑さからよけいにわからなくなってしまっただろうか? 初めに答えありきではなく、話を進める上で徐々に世界観を変更修正しながら進めてきたので、わざともってまわった言い回し等もあって、よけいに混沌を深めたかもしれない。そこで、最終的にここでしめくくりとして、『ONE』の主たる世界のあり方を自分なりにまとめておきたいと思う。

 まず、前章でもちらっと書いたが、浩平が今生きている日常世界、これは、彼がこの世界へやってきた時点で「再構成」された世界である。つまり、浩平がここに居られる状況というものがかなり意図的に作られた世界である。例えば「ゆきこさん」。彼女は、かつて浩平の手を引いてこの街へやってきたその人と同一人物なのだろうか? 浩平以外、誰もゆきこさんの素顔を見たものは居ない。また、浩平の主観的意識の中にゆきこさんの姿が映ったことも一度としてない。そうなってくると、一体ゆきこさんはこの家に本当に存在するのだろうか? とさえ思えてくる。それは本当にゆきこさんなのだろうか? はたまた、おばのゆきこさんという人物は、本当に実在したのだろうか? みさおの葬儀が終わって、ひとりぼっちの部屋でカメレオンのおもちゃを見つめたときから、とめどもない涙とともに浩平少年は壊れてしまっていたのだから、過去の記憶そのものが疑わしい。あるいは再生した浩平が住む条件の家に、都合の良い独身キャリア女性の住処を選んだということも考えられる。まず、そのあたりからして疑わしい「現実」なのだ。浩平の言葉を借りれば、ゆきこさんとは「大体オレじゃない別の人間がこの家にいつの間にか住んでたって、一向に気づきはしないだろう」人なのだ。

 次。だよもん瑞佳。知っての通り、だよもんとは、身寄りを失い母方の叔母ゆきこさんのところに預けられた浩平が、友達もいない知った場所もない「異国」ではじめて遭遇した同い年の女の子だった。いつものように部屋でふさぎ込んでいると、コン、コン と、窓ガラスが音を立てる。誰かが石を投げているのだろうか? と思って窓を開けると、眉間にゴンと石が当たって頭にヒヨコがかけめぐる。「あくしつなイタズラだっ!」と怒り抜いた浩平が、「いっしょにあそぼうっ」て、誘うつもりで石を投げていただよもんに、「あしたからイジメてやるから、カクゴしとけよっ!」と宣言して以後、そのまま本当にずーっといじめにいじめまくって現在に至るというわけわかんなさなんだが(うーん壮絶だ)、この瑞佳の登場の仕方というのは、「えいえん」の章で語られた「みずか」の記憶と微妙に一致しない。浩平は、瑞佳とは「永遠の盟約」のくちづけを交わしていないし、瑞佳と出会ったときは泣いてはおらず、ただ知らない街に来てふさぎこんでいる少年であったことになっている。そういうことになっている、というのは、それが「再構成」された「偽装記憶」だからである。あるいは「えいえん」を経由して再びこの街にやってきた少年にとって、泣かなければならない悲しい記憶も、そこから始まった空っぽの自分も、既に消去された過去なのだ。そういう負の遺産を全て「えいえん」の中においてきて、彼の人格はここで「再構成」された。いわば、記憶の変質・封印があるわけだ。従って、幼なじみの瑞佳についての思い出も、どこまでが本当のものなのかはわからない。瑞佳自身との記憶の照合を行わないと、真実は明らかにならないだろう。(実は瑞佳自身も記憶を失っているので、二人が記憶の照合作業を行ってみても真実に接近するのは厳しいかもしれない)。浩平の主観現実は、彼がこの街に居ることに都合がいいよう、至る所で改編があるのだ。本人はむろん、そのことを意識していない。また、封じこめた筈の記憶が現実と干渉して、別の記憶を生み出している部分もある。

 例えば、以下の叙述。

 

長森「ねぇ、でもさぁ、ほんとう一緒におフロなんて入ったことないよね?」

浩平「あるって」

長森「ないよぉーっ。浩平の裸なんて覚えてないもん」

浩平「あんなに湯船ん中で、じゃれあってたっていうのに」

浩平「興味旺盛なガキだったから、たぶん、おまえの体で触っていない部分はないはずだ」

長森「うわ、ひとに聞かれたら勘違いされること言わないでよっ!」

浩平「それで確か、おまえ、おもちゃを持っていないとフロに入れなかったよな。退屈するからって」

長森「うそだぁ。そんな、おもちゃなんて持っておフロ入ったことないもん」

浩平「そうか? 確か…」

それはいつだって長森が持っていたものだ。

…なんだっけ。

 

 事実関係を知っている者にとってはぞくぞくするようなスリリングな会話である。浩平は、瑞佳と一緒にお風呂に入ったことがあると思っているわけだが、七歳を過ぎて出会った二人が容易にそういう状況になるとは考えられない。また、瑞佳もその事実を否定している。とすればこれは、浩平の頭の中で勝手に合成された偽の記憶なのである。本当のところはどうか? 浩平には妹が居たわけだから、うんと小さい頃には当然一緒にお風呂に入っていたはずなのだ。それはもう、一度や二度じゃないだろう。そして彼の漏れてくる記憶に従えば、興味旺盛なガキだったので本当に妹の体をあちこち触りまくっていたに違いない。とんでもない兄である。あるいはこうも言えやしないか。浩平は妹が好きだった。それも家族として以上の愛し方をしていた。あるいは恋をしていた。浩平は、妹が男親というものを知らないのを気の毒に思って、自ら父親役を買って出るのだが、それはつまるところ、妹に男としての自分をアピールしたかったのではないか? ということである。

 こうした、普通以上の妹に対する執着が、感極まった事態の中で浩平を壊した。それはおそらく少年にとって、単なる肉親の喪失以上の感情であったに違いない。事実その前後、母親に対しての感情はなぜかほとんど抱いていない。この年頃にそういうことは不自然すぎる。彼に見えているのはみさおだけなのだ。最愛の妹、みさおだけが、彼にとっての幸せな世界の代名詞だったのである。一体、浩平はみさおと本当に血が繋がっていたのか? そういう疑念さえ湧いてくる。

 ぷらす、おもちゃを持っていないとおフロに入れなかった瑞佳、という記憶も混成されたすさまじい代物だ。幼い頃、みさおがおフロにいつもおもちゃを持ち込んでいた記憶と、更に、みさおがいまわの際でずっとおもちゃを手のひら上でころがしていた記憶が、混沌としたまま、他人である瑞佳に押しつけられている。瑞佳は、自分がおフロにおもちゃを持って入ったことなどないはずなので懸命に否定しているが、浩平は確かな記憶だと思っている。ただ、そのおもちゃがなんであったのかが思い出せない…いや、それを思い出してはならなかったはず。つまり、消えてなくなる迄の四ヶ月間の始まりは、紛れもなく浩平の封印された記憶の「覚醒」に起点を置くということである。思い出してはならなかったのだ。それはあまりにも辛い思い出だったから。ひいてはこの世界での、浩平の存在そのものをも危うくする封鎖された筈の記憶であったから。

 あくま私的想像なのだが、こういった点からも実は、瑞佳=みさお の可能性を検討している。もう少し正確に書いておくと、瑞佳=みさお(リ・バース)という可能性のことである。論理的先後関係から言って、浩平はまず、悲しみのどん底で幼い頃にちびみずかに出会い、そして「永遠の盟約」を交わし、「えいえん」の世界の住人となった。そして、その「えいえん」から日常へ再生「リ・コンストラクト」した後、瑞佳と出会っているはずである。とするならば、ちびみずかが瑞佳の面影とうり二つであるというのがかみ合わない。浩平は瑞佳と出会うより先に、その面影に触れるより前に、ちびみずかと出会っているはずだからである。ならば、ちびみずかの視覚的イメージというのはどこから出てきたのであろうか? (みずか=瑞佳 同一人物という可能性はほとんど皆無と言っていい。)

 むろん、記憶干渉という説も取れないこともないし、何よりも「えいえん」の世界において、ビジュアル化されたちびみずかが本当にそういう容姿をしていたと解釈する根拠はない。そいつは浩平の瑞佳を経由する意識が作り出した幻覚かもしれない。しかし、最後までちびみずかは子供の姿のままであったし、初めて出会ったときから少女であると主人公は認識していたようなので、当初は顔が無かったというわけでもあるまい。そして今見えている顔がそれと異なる幼なじみの瑞佳のものになっていなくてはならない、という道理もない。従って、それはみさおの面影ではないかと私的には思うのだ。そして、みさおの面影だったから、みさおといつまでも一緒に居たいと願った主人公は、「盟約」を交わしたのではないかと、思ったのである。実際、彼はそれからずっと、「えいえん」の少女と一緒にいた。いつも一緒にいることを望んでいた。少なくとも夢見ている時以外は…。

 更にここのところが重要なロジックなのだが、なぜ浩平は「えいえん」の中で夢を見る必要があったのか? ということ。そしてなぜそれが許容されたのかということ。もう一度、浩平があの時望んだ願いを再現してみよう。

 

すべては、失われてゆくものなんだ。

そして失ったとき、こんなにも悲しい思いをする。

それはまるで、悲しみに向かって生きているみたいだ。

悲しみに向かって生きているのなら、この場所に留まっていたい。

ずっと、みさおと一緒にいた場所にいたい。

うあーーーん… うあーーーーーーーんっ!

泣き声が聞こえる。

誰のだ…?

ぼくじゃない…。

そう、いつものとおり、みさおの奴だ。

「うあーーーーん、うあーーーんっ!」

「うー…ごめんな、みさお」

「うぐっ…うん、わかった…」

よしよし、と頭を撫でる。

「いい子だな、みさおは」

「うんっ」

ぼくは、そんな幸せだった時にずっといたい。 それだけだ…。

 

 想像してみよう。だよもんと出会った頃の浩平の様子を。彼は、みさおの代償ともいうべき少女とともに、いつも一緒にいた。そして、ことあるごとにいじめては泣かせていた。いじめるというのは、彼特有の愛情表現だ。幼いみさおをアイアンクローで締め付けていたのも、浩平少年ならではの愛情のスキンシップである。彼は、そういった、楽しかったみさおとの思い出とほぼ変わらぬ瑞佳との日々を取り戻していた。従って、とても幸せな日常だったと言える。「うあーーーーん、うあーーーんっ!」と、泣きべそをかく瑞佳の姿がなんとなく見えるような気がする。浩平は根っから悪いやつじゃない。相手が泣き出したら、きっと「うー…ごめんな、みずか」と、あやまっていたのではないか。瑞佳も、自分が本当は可愛がられていることを知っていただろうから、「うぐっ…うん、わかった…」と、今まで泣いていた目をこすりながら、結局はとことこと浩平の後をついて歩いていたのではなかろうか。そういう日々が続いて、いつの日か二人とも大きくなって…。うん、それは紛れもない、浩平の望んだみさおとの幸せな日常だ。壊れてしまった日常の、夢の再現に相違ない。

 たぶん、それを彼が望んだのだ。だから、再構築される世界の中に瑞佳を選んだ。逆に言えばこういうことだ。この世界では本当は魂を持たない浩平は、自分の「世界」を単独で持つことはできず、そのためには結局誰かの夢に入り込むしかない。とすれば一体、誰の夢に入れば良いのだろうか? あるいは、誰の人生に入り込めばいいのだろうか? そうして瑞佳が選ばれた。おそらく、瑞佳は浩平と違って、七歳という時点からいきなりこの世界に現れた謎の意識体なんかではなく、ちゃんと母親の胎内に目覚めてこの世に生を受けた赤ん坊の記録を持つ正真正銘の人間であろう。その彼女のもとへ彼が訪れたということは…そしてもし、「えいえん」の世界にいざなったちびみずかの面影が生きていた頃のみさおのコピーであり、その「みずか」と瑞佳がうり二つの面影なんだとしたら、そいつは間違いなく必然的な物語だろうという帰結。瑞佳は、みさおの魂の生まれ変わりだという論拠となる。そうでなければ色々な部分がおかしいし、そうあるべきなのだ。だとすれば、「永遠の盟約」は浩平の願い通り、本当の意味で完遂していると言える。主人公の願いがその通りに叶えられた、完全なる世界ということになる。ちびみずかの正体とは、むろん、冒頭でも述べた「カメレオンのおもちゃ」である。浩平の意識の中では、そのおもちゃは今や、瑞佳とともにある。みさおとイメージがだぶりあう、瑞佳のもとに。瑞佳と一緒におフロに入った記憶の中で、彼女がずっと手放さなかったおもちゃとは、つまりはそういうことだ。

 論拠はそれだけではない。一度でも瑞佳シナリオをやった方ならわかると思うが、浩平は彼女と結ばれる前にとんでもなくひどいことをしている。それはいじめとかそういうレベルを遙かに超えた、重大な愛する者への背信行為だ。通常絶対に許されない、人として最低の行為だ。ところが、瑞佳はそうした事件によって人格すら傷つけられても、それでも浩平にすがってくるのだ。この慕い方が恐ろしい。ちょっと尋常ではない愛し方だ。

 

「わたしは…浩平でないとダメなんだ」

「やっぱり浩平でないとダメなんだよ」

(浩平のことだから、みんな私はゆるしちゃうんだ。だって、それは浩平がしたことだから。)

 

 そうまで言わしめる彼女にとっての浩平への想いとは何なのであろうか? どんな「絆」だというのであろうか? たかだか10年あまりの幼なじみとの想いがそうまでさせるものなのだろうか? また、瑞佳と結ばれるシナリオに到るまでの異常なまでの選択肢上の困難さを思う時、まるで前世の因縁が二人を惹きつけ合い、それなのに正式な恋人同士となるためには目に見えない大変な障壁をもたらしているかのような、印象を受けることがある。二人の愛は、ほとんど禁断の領域といって良いほど異常なシチュエーションで結ばれている。禁忌。それを思い起こすとき、瑞佳に成り行きで告白して「OK」を貰ってしまった時の主人公の鮮烈な戸惑いと忌避感を思い出さずにはいられない。その「タブー」を犯してでも彼女を愛せるシチュエーションになってこそ、燃え上がる気持ち。あるいは贖いともいうべき悲愴な状況での二人のベッドシーン…。幼なじみというより、ほとんど「兄妹」としてやってきた今までの条件付けが克服される迄には、筆舌に尽くしがたい大変な思いを二人は要していたが、そういう状況をもたらしたのは、瑞佳の無条件なる「許し」だったのである。瑞佳の気持ちは、完全に幼なじみという存在への許容量を越えていたのではなかったか? だが、病院の片隅でカメレオンのおもちゃを握りしめながら、「うんっ…ありがとう、おにいちゃん…」と最後の感謝の言葉を残して逝ったみさおの魂が、再生することで懸命に許しているのだとしたら、それはきっと納得できる。みさおにとって、浩平は全てを許しても許し足りないくらい、心から愛した最高の兄だったはずだからである。だから、瑞佳はみさおでなければいけないんだと思う。少なくとも私自身は、そうでなくては二人の物語を納得できない。二人の関係を承諾しがたい。

 さて、本当にもし、瑞佳がみさおのリ・バース(再生)な存在だとしたら、それはそれで問題となることがこれまたいくつかあるので指摘しておこう。みさおが死んだのは主人公が七歳の時だが、それからもう一度生まれ変わってきたとすると、時制が合わなくなってしまう。現在の浩平と瑞佳は同級生ということなので、瑞佳が七歳になるまで浩平は待っていたことになる。というよりは、既に七歳の魂として「えいえん」に存在していた浩平は、七歳の瑞佳の居る世界へと望んで自らを再構成したのだろうか。それにしてもそうなると、「えいえん」の世界に到る直前の浩平が母方のおばに連れてこられた街と、今の浩平が日常を過ごしている街の間に七年ほどの時制的な開きが出来てしまう。元々街自体が別物なのかもしれないが、そこで最初の問題に戻るとすると、では「ゆきこさん」という人は何者なのだろうか? 由起子さん…それは、「ゆえがおこる人」と書く。「ゆきこさん」は、浩平がみさおと暮らした街をしぶしぶ離れ、別世界へと旅立つきっかけとなった問題の発端となる人だが、この母方のおばと呼ばれる人は、もしここで七年の時制のずれを認めるならば、この世界の由起子さんとは別の人という可能性が高いことになる。それは浩平少年が置き去りにしてきた過去の人に過ぎない。現在の由起子さんは、瑞佳再生の世界にたまたま居合わせた単なる独身のキャリアガールなのかもしれない。そこへ浩平は無理矢理居候をしているのだろうか。(つくづく、浩平らしい迷惑な話だ)。いや、それにしてもこの章の冒頭の議論に戻るのだが、本当に「ゆきこさん」なる人は存在するのだろうか? という根本的な疑問にも突き当たる。一緒に暮らしていながら、これほど存在を明らかにしない「ゆきこさん」は、あるいは存在を明らかに出来ない理由を持っているということになりはしないか? そうすると、むしろこの不自然さが逆照射する形で、「瑞佳=みさお」ロジックを支えていることになりはしないか、とも思える。この辺のところはまだ検証を要する問題かもしれない。

 

 少なくとも、小さい頃に連れてこられた新しい街のことについて、既に精神的につぶれてしまっていた浩平少年はほとんど何も覚えていない。だから、もし今の日常がそれとまるで異なるものであったとしても、はたまた七年の時制がずれていたとしても、彼には気付きようがないことになる。あるいは気づきかけたとしても、瑞佳との幼少の記憶のように部分的に修正されたり改変・合成されたりしてしまうので、浩平にとっては結局それは、小さい頃に引っ越してきた「新しい街」なのである。ただ、一度、少女と「永遠の盟約」を交わしたことでそこから離れて「えいえん」の世界へと取り込まれ、その後たぶん魂をそこに残してきたまま、霊的な意識として再びここで目覚めたということが介入するにしても、ここは紛れもない、浩平少年の「世界」である。そして、「彼の望んだ世界」でもある。瑞佳と一緒に居ることの意味合いはとても、重い。また、瑞佳の方も前世の記憶、あるいはそこに残してきた兄への想いに自縛されている気配がある。もっとも、二人に思春期が来て、もし他人である「元兄」が自分を恋人として求めたりしなければ、全然それで構わない兄妹のような関係の二人なわけだが…。その辺が、瑞佳という存在の感覚的な不思議さであり、あるいはこの二人の関係こそがトゥルー(真実)であるという、設定上の根拠となり得るだろう。そうでないと、パッケージ表紙のヒロインが瑞佳である理由はなくなってしまうし、唐突にみさおのエピソードが挿入される場面だって有機的にリンクしない。主人公の本当の記憶(みさお)が覚醒することと、同時に瑞佳との世界が壊れていくことのつながりが、うまく説明できなくなってしまう。瑞佳との世界を求めるということと、みさおを忘却することとは同義でなければいけないのだ。その禁を破った時、彼の仮想意識体は「えいえん」へと回収されるのだろうということを、一つの想像的結論としてここでは提示しておきたい。

 さて、誰もが知っての通り物語のクライマックスにおいて、浩平は消える。なぜ消えてしまうのか? という多くの人の疑問は、未だほとんど解消されていないのではないかと思う。とにかく消えてしまうんだ、という設定を受け入れない限り『ONE』をめぐる女の子達とのせつない別離のドラマは成り立たないので、しぶしぶそれをファンタジーとして了承しているのが現状ではないだろうか。消える、という状態を説明するには色々な方法があるが、わかっているのは浩平の存在が当初は、彼と遠い関係にあるものの個人的記憶から順次消えていくということ。そしてだんだんと近接する人たちの記憶からも消え始め、たとえそこに本人が立っていたとしても、その存在を認知してもらえないという関係が生じる。例えば都会の雑踏の中で他人とすれ違っても、生じる印象はたぶん「そこに何かがあっただろう」という程度のもので、「人物」として認知していないのと同じ理屈だ。人を人として意識の中に立たせるには、その人に関する驚くほど多くの情報と現実的対峙性が必要になるのだが、浩平の場合はそういうものが急速に、しかも周囲の人間から同時に失われていっているのである。それは、確かに恐怖かもしれない。あるいは裏返してみれば、忘れられている自分こそが、本当は消えつつあるのではないか? という疑念に突き当たる。そしてそれは間違いではなかった。やがて時が訪れると、彼の肉体は他の人々の視覚的認知にすら登らなくなる。瑞佳の件で言えば、膝の上の彼の重みがすっと軽くなる。目を開ければそこに浩平はいない。本当に、いなくなってしまうのだ。これは、この世界における非主観的な事実である。誰の目からも、浩平が物理的に消えてしまう。カメラがとらえる客観的事実だ。

 こうして考えてみると、果たしてそこに初めから折原浩平という人間は存在したんだろうか? という疑問が生まれてくるべきだろう。自分の答えはもちろん「否」、である。もともと、浩平なんて人間はこの街に存在しなかったと考える方が正しい。それでないと、人一人の存在丸ごと消えてしまう理由が説明付かない。では、浩平が存在していたと記憶する少女達は、一体何を見ていたのだろうか? 私的には、それらは、霊的接触による意識内合成のイメージだと考えている。わかりにくい解釈で恐縮だが、人間はあるものを認知するとき、そのものとの感覚的接触を契機に存在を得、それを頭の中で再構成する形で認識にのぼらせている。例えば感覚そのものに擬似的な情報を与えるようなシステムというのはバーチャルリアリティと呼ばれているが、それが例えば立体視ゴーグルとかパワーグローブというレベルを遙かに超えて、実神経感覚と変わりないぐらいのリアリティで情報入力されると、たぶん人は、それを擬似的なものと解釈するのに困難を覚えるようになるだろう。同様に、多くの意識同士が密に接触し合って「その世界」の中でおしくらまんじゅうをしあっている状況の中で、もし恒常的にフェイクな情報を誰かが発信し続けたとしたら、そこにはまるまる一人の人間がありもしないのに蘇るのではないか、ということである。そこには、たとえ死人であっても蘇るのではないか、と。更に、こうした擬似精神の注入がある日突然途絶えたとしたら、あるいはシステムそのものがダウンしたら、きっと誰の認識の中からもその人は忽然と消えてしまうだろう。そう、初めからその人の魂というものはそこに存在しなかったからだ。折原浩平なんて人はそこに居なかった…。

  『ONE』サントラに添付されたプロデューサーの詩にこういうものがある。

 

でこぼこがたくさん。

どれもいろんなカタチをしてる。

ありったけよせあつめてもっとおおきくなって、かぜにのろう。

でもこれだけさまざまなカタチがあるんだから、とうぜんすきまがたくさん。

ちょっといたいかもしれないけど、おしあいながらすこしずつすきまをうめつづけよう。

そうすればすこしずつうごきだすよ。

そして、このさかをあがろう。

ときどき、すきまがおおくなってしまうことがあるね。

どこにすきまがあるのかわからなくなることってよくあるね。

ちぎれそうになることだって。

でも、おしあってつながっていればだいじょうぶ。

それにしても・・・・むこうからはどんなカタチにみえているのかな?

いってきいてみよう。かぜがやまないうちに。

きっとやさしくむかえてくれるよ

 

 これは、多くの魂がおしくらまんじゅう状態で繋がり合いながら、互いに隙間を埋め合い、そして目的とする世界へと坂を上っていくイメージをうたいあげたものだ。『ONE』の世界観をこの人なりに表現した言葉であろう。こころは(魂は)、それぞれにでこぼことした違うカタチをしているけれども、みんなくっつきあいおしあいつながっているものなんだと。えいえんにたゆたう、夢のたまごなんだということ。心同士は、互いに接触し合っている相手をそれぞれ人として認知し、友達となり、あるいは恋人となり、そして社会を形成してゆく。それは、繰り返す日常の世界。だけど果たしてこんな僕たちは、むこうから見たらどんなカタチに見えるのだろうか? 無限なる「えいえん」の世界で、その果てまで吹いているという風に乗って、魂の連鎖から解き放たれた存在である「彼女」に会いに行ってみないか? そしたら、きっと聞けるかもしれない。優しく迎えてくれるだろう。

 人の心がぎゅうぎゅうにおしくらまんじゅうをしている、この現実世界のことを…外側からどんな風に見ているのだろうか? あるいはそこから迷子になってしまったちぎれたかけらを、どうやってケアしているのだろうか? 彼女は、みずかは、キミは、「えいえん」の守り人である。いつまでも年を取らず、時間の存在しない世界にいる、悪戯な「えいえん」の守り人…。それに見守られながら、流転する人々の魂。けっこう、壮大なイメージになろう。

 死んじゃうとどうなるのか? 魂はくっつきあっている世界から離れる。そうして、しばらく「えいえん」にとどまって風に吹かれ漂っているが、またもとのくっつきあったかたまりの中へ戻っていこうとする。再誕。でも、たまにそうなることをいやがる魂などもあって、もとに戻る夢だけを見ようとすることも。そういう時どうするか? 彼女は夢を見せてあげるのだろう。優しく夢の中で遊ばせてくれるのだろう。望むとおりの、夢を…。けれども、単なる夢ではない。戻りたい気持ちだけをそっと、あのみんなの世界に戻してくれるんじゃないだろうか。それで幸せでいられる間は、せめて、そのままで。やがて目覚めるべき時が来たら、本当にやり直せばいいのだから。魂は「えいえん」の中に預けられ、そのまま夢という現実の中へ舞い戻る傷ついた意識のかけらたち。それは、きっと一つだけじゃないんだ。そうやって境界上を行き来しているものたちも、現実の一部なんだ。氷上や茜の幼なじみや浩平や、その他大勢の魂が、きっと何らかの個人的理由を抱えて「えいえん」と現実の狭間を流転しているということだろう。人との「絆」を求めながら、いつか救われる日の訪れるのを待っているのだろう。それが、それこそが本当の「えいえん」の見取り図かもしれない…。

 とても愛おしい人の膝枕を離れて、浩平は消えてしまった。そいつは逃れることの出来ない、この世界に於ける彼の存在にまつわる約束事であった。たった一人の人だけに自分に関する記憶を残し、彼は「えいえん」のたもとへと旅立った。きっとそれだけは間違いないことなのだ。「みずか」と呼ぶ少女のもとで目覚め、浩平は何を思ったのだろう? その後、彼の魂はどうなってゆくのだろう…? そこが、「えいえん」をめぐる秘匿された物語の本当のクライマックスになる。

 エンディングクライマックス。−その時、深い余韻の中で『ONE』をめぐる懐かしい日々の記憶がセピア色のフィルターの向こうで輝き、何気ない日常の風景というそれらが、本当に貴重なものであったことをゆるやかに思い出してゆくのだとすると、きっとたぶん、誰もの意識が主人公のものとシンクロしていることだろう。それもまた、折原浩平の「えいえん」の世界の入り口での主観的意識、回想なのだ。そして真っ黒な画面に到り、FINという文字が画面のすみに止まる。文字通り、世界はそこまでだ。浩平の意識の果てが、ここで区切られているということのように思う。やがて、「えいえん」の空が浮かび上がる。プレイヤーはどうするだろうか? きっとまた、「えいえん」をスタートさせるのではないだろうか? そうしてその選択も、折原浩平の意識のリスタートなのだとしたら、物語はまさに『ONE』というゲームシステムそのものの構造性を援用した、終わりの無い「リ・インカネーション」な世界として、夢幻的スパイラルを構成し始めるのである。つまり、アドベンチャーゲームというものがそもそもプレイヤーの選択肢によって刻々とストーリーを変容してゆき、ラストシーンとともに又スタート位置へ戻ってくる構造的性質を、浩平の「えいえん」をめぐる人生になぞらえていると捉えることが出来る。氷上キャラのメタフィクショナルな設定をひもとくまでもなく、明らかに『ONE』は一旦終了させてから更にもう一度リ・スタートさせる仕方での世界の見え方を、十分に意識して組み立てられているにちがいない。氷上キャラを含めて、『ONE』は非常に明示的な自己言及システムなのである。フィクションとして語られていたはずのことが、自分自身について語りを始めるような、そういうメタマジックゲームである。もし、そのことに気付いたとき、プレイヤーの頭には軽い眩暈ともとれる永遠性が感じ取られるのではないだろうか。スタート地点から再度始めることも、途中の分岐点をロードすることも、等しく浩平のストーリーの継続を意味するのに違いない。そう、浩平は何度でも記憶をリセットしてこの世界へと帰ってくる。数多くの分岐の中でわずかに物語をスライドさせながら、何度でもこの地上に「絆」を求めようとし続ける。間違いなくそいつは「えいえん」の夢だ。尽きることのない「えいえん」の繰り返しの夢を見ていることになる。繰り返しながら、「選択」し続ける。

 

しかしこういう朝の光景にも慣れてきてしまっているが、よくよく考えてみると不思議なものだった。

それはなんていうか、ひとつ何かが違っていればここには至っていなかった、という奇妙な感覚だ。

これまでにも無数の分岐点があり、ここには至らない可能性がかなりの確率であったはずなのに、ここに至っている。

まあ裏を返せば、どこかには至るのだから、その時々でそんなことを思うのかも知れないが、それでも自分の人生として考えてみると、やはりこの巡り合わせは特別不思議だったりする。

 

 不思議なことなのだろうか? それはまぎれもない、そこまでは浩平自身が選んだ一本道のルートだったのではないだろうか。つまり、目の前にどんなに多くの分岐が存在したとしても、何度リスタートをかけても、結局浩平が選びうる道筋は瑞佳とともに成長するルートただ一つだけだったのではないかと想像できる。だからこういう朝の光景も、なんら不思議ではないものだったのだ。そこまでの決定されたプロセスは、「永遠の盟約」の内に規定された、みさおとのえいえんの日常的具体であり、約束された浩平少年の「本当の幸せの日々」だったのである。ここに到らない可能性がかなりの確率であったはずなのに必ずこうなってしまうのは、浩平自身の望みが叶えられるようにこの世界が何ものかによって当初から意図的に選択されてきたことを物語っている。元々、時の流れの無い「えいえん」の世界からは、どんな時制でも選びうるし、どんな選択肢のところへでも飛ぶことができる。夢の世界は、本来リニアに流れている一直線の世界ではない。それは、世界をかたどる何億もの魂が自由に自分のルートを選べる、多重可能性世界であるはずだ。分岐毎にあらゆる可能性が重なり合って、別々の世界を構成し、それぞれに異なる状況を維持する世界。その中にあって、浩平は瑞佳に毎朝ベッドで起こされ、あわてふためいて学校へ出かける物語だけを選んだ、ということなのである。この巡り合わせの不思議さは、それを望み通りに選び得た、今の自分の幸福を振り返ってみた時の感慨なのではないだろうか。本当はもっともっと傷つき、もっともっと過去の記憶にさいなまれ、全てが失われてゆくものとして、人の世の絶望の淵にただうずくまって泣いていたはずなのだから、幼い魂はやっぱり「えいえん」に救われていたのではないかと思える。少なくとも今、ここにこうしていられる「えいえん」の夢は、彼にとっておだやかで楽しい日常だ。この文章を読む限り、世界は、丸ごと彼にとって優しい空間だ。瑞佳の胎内でまどろむ、癒しの宇宙だ。

 …だから本当の選択肢、日常の分岐というものは、その時始まる。瑞佳以外の少女達へまなざしを手向ける瞬間。七瀬が現れ、繭と遭遇し、みさきと出会い、澪と運命のアクシデントを起こし、そして茜に興味を抱き始める時、約束されていた条件は変容し始める。それらは、瑞佳という幼なじみとの蜜月が壊れ始める地点だからである。相手が瑞佳であっても、やはりだめだ。今までの二人の関係を変えてしまうものならば許されない。あるいはこういう可能性もある。ある人に対し、幼なじみとの永遠の蜜月よりも、もっと重要な二人のあり方をその人に求めたとしたら、それは一旦今迄の条件を破棄するためのとても辛い試練を経るかもしれないが、お互いの「絆」を最後まで信じ合えるならばそれも又、約束された別の人生の選択肢の始まりなんだ、と。そしてそれは、滅びの時へ向かう限られた時間での精一杯の命のきらめきを彼と彼女に求める物語。「えいえん」への精神的退縮を解くための、日常回帰への「戦い」を意味するものなのだと思う。

 結局、ゲームはその分岐がはじめて発生し始めてから、消えて無くなる迄の約四ヶ月間に光を当てた、浩平の人生のマルチレイヤーな体験装置であったのではないか。それは何度も何度も答えを探し求めて繰り返され、やがて終了のコマンドとともに本当の現実へと帰っていく、精神の旅路であろう。そういうプログラムに、『ONE』の深淵と狙いの鋭さ、そしてメタフィクションとしての構造的な超越性を見る。浩平の意識にいつしか吸い込まれるような感覚を抱くのも、プレイを繰り返すうちに「えいえん」にとりこまれたような錯覚を起こすのも、全て仕組まれたプログラムだったのではないかと思う。まさに『ONE』の存在自体が、「えいえんはあるよ。ここにあるよ」という魔性の呼びかけとも言えただろう。

 そして、FINの文字を見て後、一年の時間経過を経て主人公が帰ってくる動機は、彼と彼女との「絆」の共鳴に由来するものだ。どちらが欠けても不足してもそれは成立しない、奇跡の訪れ。おもちゃの車輪の一回転がこの現実世界における一年を意味するのだとしたら、きっと巡り来る一年ぶりの輝く季節に二つの世界の通路は開き、彼は再びあいまみえる。やつは最愛の人のもとへ、何事もなかったかのように笑顔でやってくる。18歳の折原浩平が、「やぁ」と手を挙げてやってくる。残してきたものとは、約一年間の17歳の刻。夢を見なかった、少女とだけの時間。それを「えいえん」に転惰してゆけば、きっとあちらの世界の「みずか」も浩平とずっと一緒にいられるのではないだろうか? そういう優しさを、なぜかほんのり感じたようにも思えるのだ。

 そう。ほんの思い過ごしでなければだが、楽しい想像はしないよりはずっといい…。

 それだし、これだけは多分間違いなく言えるはずだ。浩平はいいやつだ。大変いいやつだ。どんなに無粋でふざけたやつでも、非常識でだらしなくてとぼけたやつでも、それだからこそ不思議なことに確信できるのだ。 「おまえは、最短記録でオレと親友に成れた奴だよ」 と。

 輝く季節はいつまでも、えいえんに、ほんの幸せの小さなかけらをこの僕に。今度こそ本当に、永遠のものに。

 

 

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